日本政府の移民難民対策が謎すぎる、クルド人問題の根幹を雨宮処凛が語る
難民申請をしたら何十万円も支給されるというデマ
アリさんの場合は逆境の中で努力をして優秀な大学へと進学したが、難民として日本を訪れる人々の中には現地の優秀な大学を卒業した人や、母国では外交官をしていたという優れた頭脳・才能を持った、日本では「高度人材」といわれる人々が多くいるという。そんな人々でさえも仮放免という立場ゆえに就労ができず、なかには困窮してホームレスとして生活しているケースもある。 「クルド人へのヘイトでよくいわれているのが『ニセ難民』という言葉です。困っていないのに日本に来て、甘い汁を吸おうとしているといったイメージを持っている人もいるかもしれませんが、仮放免で働くこともできず、酷い場合には極貧で路上生活というのが現実。まったく甘い汁なんて吸ってないんです。 また、難民申請をしたら一月に何十万円も支給されるっていうデマもよくネットでみますが、そんな事実はないです。唯一日本にあるのは国の外郭団体『RHQ(難民事業本部)』による支援で、生活費がだいたいひと月7万円、住居費が4万円(※単身の場合)、医療費は一度は立て替えになります。でも原則、難民申請一度目の人に限られるし、現在は六か月待ちで、支援されるのは基本的に四ヶ月間。もちろん、厳しい審査がある。支援を受けられても難民申請が却下されてしまえば打ち切りです。 それなのに、なんで甘い汁を吸いに……なんていう誤解が広がるのかっていうと、日本政府の在留資格の出し方にも問題があると思います。その時々によって変わるんですが、日本に来て一回目の難民申請をすると就労できる『特定活動六カ月』が出ることが多いんです。それによって『ほら、働きに来たんじゃないか』と言われても、そもそもその資格は日本政府が公式に出しているものだから、当事者の人たちを叩いても仕方がない」
ことごとく政府の外国人政策のビジョンがわからない
ゆえに働くことができない難民申請の審査待ち中、および仮放免の人々は、民間の支援団体によって支えられているのが実状だ。が、それにもまた限度がある。実際、現在はコロナ禍が「収束」したこともあり寄付金も激減。どの支援団体もあと三年持たないと悲鳴をあげているという。 「日本の移民難民対策が謎というか、筋が通ったことがまったくないんです。だから支援者にも移民や難民の当事者にも、たぶん入管で働いている人すら国の意図がわかってないし、ことごとく政府の外国人政策のビジョンがわからない。 23年、最も多く難民認定されたのは、アフガニスタン人でしたが、その中には日本政府の庇護が必要な、大使館の現地職員だった人が100人以上含まれています。一方、クルド人についてはトルコ政府との外交上の関係があって難民認定をしていないんじゃないかという指摘もあります。難民認定すると、トルコ政府によるクルド人への弾圧を日本政府が認めることになる。それがまずいと思っているのでは、と。でもそういう政府間の駆け引きはさておいて、国が難民条約に批准している限りは、クルド人はもちろん様々な国からの外国人が難民申請のために来る。 移民も難民もこれから増えていく一方に決まっているし、わたしたちだって日常的に外国人の方にお世話になってるじゃないですか。だからヘイトは論外として、どうやって上手く共生していくかを考えないといけないと思います。『難民・移民フェス』というイベントを主催している金井真紀さんによる『支援者にはなれなくても、友達にはなれる』という言葉があるんですが、これは誰にでもできること。現状をよく知らないからヘイトが生まれるので、『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』を読んで移民・難民のリアルを少しでも知っていただけたら幸いです」 構成/大泉りか
ENTAME next編集部