ラグジュアリーホテルの今のスタンダードがここにある──「ブルガリ ホテル 東京」滞在記
「ブルガリ ホテル 東京」が開業1周年を迎えた。高さ約240mの建物の高層階に鎮座する“宮殿”からなにを読み解けばいいか。宿泊記をレポートする。 【写真を見る】ホテルの中をチェック!
これまでの上質がアップデートされた
東京・八重洲に「ブルガリ ホテル 東京」が誕生して、1年が経った。2023年6月にはローマで開業したほか、今後はモルディブ・ランフシやアメリカ・マイアミなどが予定されており、ブランドの拡大計画が続いている。開業時のオペレーションが習熟されたタイミングで試泊機会が得られたのでリポートする。 世界で8つめのブルガリ ホテルとしてスタートした「ブルガリ ホテル 東京」は、東京ミッドタウン八重洲の高層階にある。客室は98室で、そのうちスイートルームは23室。規模としてはスモールラグジュアリーで、スタンダードな部屋でも50平米以上の広さを確保した。インテリアデザインはこれまでブルガリ ホテルズ & リゾーツを手がけてきたイタリアの建築設計事務所ACPV アーキテクツ アントニオ・チッテリオ・パトリシア・ヴィエルが行った。イタリアをベースに、日本のクラフツマンシップを融合させた。サフランカラーのインテリアなど、ブルガリ ホテルならではのデザインコードは健在だ。 私が宿泊したのはデラックスルーム(56平米)。客室のドアを開け、幅2m近い通路を抜けると、ベッドルームが広がる。その眼の前には天井からほぼ床の高さまでの大きな窓が設置されている。窓枠は最小限で、採光は申し分ない。部屋は南東側に位置し、眼前にはレインボーブリッジが見えるなど、抜けの良さが際立っている。 56平米あると、すべての区画にゆとりを感じる。通路はもちろん、クローゼットも2人分に分かれて設置され、メンズであれば5~6ルックほど格納できそうなゆとりだ。ビジネスに使うスーツ、ディナー用のジャケット、季節によってはダウンやコートなどがあっても、問題なく飲み込んでくれるだろう。奥にはドレッサーがあり、LEDライト付きの拡大鏡、そしてダイソンのドライヤー、スーパーソニックが設置されている。バスルームはバスタブとシャワールームがセパレートで、ダブルボウル仕様。アメニティは当然、ブルガリで統一されている。 調光や空調、カーテンなどはベッド脇にあるコンソールで集中管理できる。電源周りにはUSB Type-Aの給電口もあり、館内の案内はすべて55インチのモニタに表示される。ボトルウォーターは、奥会津金山の天然炭酸水とスティル。ワインについては、シャンパーニュはクリュッグだが、スティルはポデルヌオーヴォが置いてあるなど、イタリアブランドらしい矜持が垣間見える。 ここまでつらつらと部屋の詳細を追ったのには理由がある。ラグジュアリーホテルと呼ばれるホテルは数多あるが、世界で認められる基準は今、どこにあるのだろうか。 「ブルガリ ホテル 東京」をラグジュアリーホテルのスタンダードとして考えると、ディテールが表す、今求められていることが腑に落ちる。「パークハイアット 東京」など、日本にはじめて外資系のホテルがやってきた1990年代を振り返ると、45平米の客室はまだ珍しかった。2000年代半ばに上陸した「マンダリン オリエンタル ホテル東京」や「ザ・リッツ・カールトン東京」、「ザ・ペニンシュラ東京」では、客室のバスルームにダブルボウルが備えられ、上質なホテルの新しい標準として認知されるようになった。 どの機能やサービスがそれにあたるか今はまだわからないが、「ブルガリ ホテル 東京」から端を発して、ほかのラグジュアリーホテルにも広まった、というエッセンスはきっとどこかにあるのだと思う。そしてそれは宿泊しなければ実感できないことでもあった。 「ブルガリ ホテル 東京」は高額な宿泊料や400平米のスイートルームなどの話題ばかりが注目されがちだ。しかし、それよりも現代のラグジュアリーホテルの基準をひとつうえに押し上げたことが大事なのではないだろうか。黒花崗岩が敷き詰められたエントランスロビーを歩きながら、ふとそう思った。 ■ブルガリ ホテル 東京 https://www.bulgarihotels.com/
編集と文・岩田桂視(GQ)