独ショルツ政権を悩ます「農民一揆」、背後に見える極右の影
「予算措置」に違憲判決が下ったショルツ政権は、穴埋めに農家向け補助金の廃止を打ち出した。しかし農民たちはデモで抗議、各地で交通が麻痺状態に陥っている。相次ぐ政策ミスで政権支持率はさらに低下し、デモを利用した右翼政党の躍進も予想される。 * * * 1月8日、ミュンヘン、エアフルト、ハレなどドイツ各地の幹線道路、高速道路は、数千台の大型トラクターが引き起こした渋滞のために、通行できなくなった。ショルツ政権の歳出削減策に抗議するために、ドイツ農民連盟(DBV)が組織したデモである。農民たちが運転するトラクターには、「我々が農作物を作らなければ、市民は空腹になる」、「政府は我々の仕事の価値を認めてくれないのか?」などのプラカードが取り付けられている。 去年12月中旬から、ドイツのあちこちの市町村の道標に、ゴム長靴がぶら下げられるようになった。これは政府に対する農民たちの抗議のシンボルだ。「私たち農民が長靴を脱いで仕事をやめると、食料が足りなくなるぞ」という警告だ。
農業に歳出削減の白羽の矢
抗議デモのきっかけは、去年11月15日の連邦憲法裁判所による違憲判決だ。ショルツ政権は2022年に、コロナ・パンデミック対策向けの予算の内、使われずに残っていた600億ユーロ(9兆6000億円・1ユーロ=160円換算)の国債発行権を、経済の脱炭素化やデジタル化のための基金に流用した。連邦憲法裁判所は、この予算措置を違憲と断定した。判決によって、2024年度予算に170億ユーロ(2兆7200億円)の不足分が生じた。 このためショルツ政権は170億ユーロの穴埋めをするために、農家向け補助金に白羽の矢を立てた。ドイツ政府は農家を支援するために、1992年以来農業向けトラクターについて車両税を免除してきた。また、農業用ディーゼル燃料にかかるエネルギー税についても、税制上の優遇措置を実施してきた。 だがショルツ政権は12月13日に、予算不足を解消するために、これらの農業補助金を突然「二酸化炭素削減に逆行する補助金」と見なして、2024年から廃止する方針を発表した。これによって農家全体の税負担は9億ユーロ(1440億円)増えることになった。事前の周知や準備期間は一切なかった。 DBVはこの措置に抗議するために、12月18日にベルリンで抗議デモを実施。約1700台の大型トラクターが、ベルリンの主要道路で大渋滞を引き起こし、一時交通を麻痺させた。この廃止措置は、オラフ・ショルツ首相、クリスティアン・リントナー財務大臣、ロベルト・ハーベック経済気候保護大臣が3人で決めたもので、ツェム・エズデミール農業大臣にとっては寝耳に水だった。エズデミール大臣は、「私は、農民たちの税負担を大幅に引き上げることには反対だ。もしもショルツ首相が私を廃止措置に関する話し合いに参加させていたら、このような発表は行われなかったはずだ」と述べ、農民たちの怒りに対して理解を示した。この発言には、ショルツ政権内で根回し、省庁間の調整がスムーズに行われていない実態が表れている。 ショルツ政権は、違憲判決後も、化学メーカーや製鉄所 の生産プロセスで使われる化石燃料を水素に切り替えるための補助金や、外国の半導体メーカーの工場をドイツに誘致するための補助金を温存することを目指している。そのしわ寄せが、農民たちの可処分所得の減少という形で現れることになった。農民たちが「政府は我々のことを軽視しているのではないか」と怒りを爆発させるのも、無理はない。農民たちからは、「ベルリンの政治家や官僚たちは、現実世界から切り離された『バブル』の中で、畑で汗水垂らして働いたことのないコンサルタントやアドバイザーの意見だけを聞いて、政策を決めている」という強い不満の声が聞かれた。