米大統領選マスコミ予想大外れ “セレブの支持が…”はもうやめよ、数学者が思う「本当に反省すべき点」
AKB48の「じゃんけん大会」を予測したことも
90年代に、日本の「ゆとり教育」の全貌が明らかになったとき、筆者は「資源しかない技術立国日本を没落させかねない」と捉え、反「ゆとり教育」の活動を開始した。そのときまず考えたことは、「数学嫌い」が断トツに多い日本の青少年の意識を変えることであった。それまでは代数学や離散数学の研究者であったが、軸足を数学教育に移し、数学嫌いを改善する活動を開始した。のべ200校ぐらいの全国の小・中・高校での出前授業をはじめ、いろいろな試みにチャレンジした。 代数学関係では「誕生日当てクイズ」や「素数」などの話題、離散数学関係では「あみだくじの仕組み方」や「パズル」などを用いたが、それだけでは話題が不足していた。そのときに思ったことは、オハイオで見た「統計」である。そして、以下のように様々な統計に関する活動を行ってきた。 ・のべ11,567回のじゃんけんデータをゼミナールの学生が取得し、「人間はグーが多く、チョキが少ない」「人間は続けて同じ手を出す割合は1/4ぐらいしかない」という傾向を示した(調査の代表者は現在、青森県の柴田学園高等学校教諭の中村友是さんだ)。これに関しては、高校数学で学ぶ統計的な検定によっても、その特徴ははっきり浮き彫りにされる。 ・2010年に開催された第1回AKB48じゃんけん大会の公式ガイドブック誌上で、筆者は「人気の上位16人のうち、じゃんけん大会ベスト16に入る人数期待値は、トーナメント組合せ表から4.25人」と予測して、結果は4人だった。その後しばらくの間、マスコミ各社からいろいろな期待値計算を頼まれたが、「当たったところで止めると、ずっと気持ちがよい」という理由を述べて、お引き受けしていない。 ・2010年10月4日に、東京第五検察審査会が小沢一郎氏の政治資金問題について2回目の「起訴相当」の議決を下したが、その審査員11人の平均年齢が30.90歳とあまりにも低すぎた。当時の週刊朝日に、「中心極限定理」というものの考え方を背景にして、東京都の住民基本台帳から算出された20歳~69歳までの人口の平均年齢は43.659歳で、11人の平均年齢が30.90歳以下になる確率は低すぎると書いた。国会でもこの記事が大きく取り上げられ、法務省から平均年齢を「30.9歳」から「33.91歳」に訂正する発表があった(10月12日)。理由は、小学校で習ったはずの割り算が「間違っていた」ということである。 ・2016年8月18日放送のNHKニュースで、「貧困女子高校生」が取り上げられ話題になった。国会議員をも巻き込み、大きな意見の対立が起こった。「大した貧困ではないじゃないか」、「この状態で勉学を続けるのは困難ではないか」、「日本は格差問題にもっと真剣に取り組むべきだ」、等々の意見がネット上を駆け巡ったが、その3年前に、このようなトラブルが起こることを危惧して、「相対的貧困率」について定義からまとめて本に書いたことがある(2013年に出版の拙著『論理的に考え、書く力』)。詳しい説明や計算例はその書に述べたが、要は貧困には絶対的貧困と相対的貧困があり、それらをゴチャゴチャにして議論を展開し意見の食い違いが生じたのである。