[井上あずみさん]“あずみ流”脳卒中リハビリで左半身まひ克服へ…落ち込んだ気持ちを前向きにする秘訣は?
上手にではなく大きな声で
――プロの歌手として、そういう場所で周りの方と一緒に歌うのはいかがですか。 私がプロだなんて関係ないですね。ここでは「今尾さん(本名)」ですから、みなさんも私が歌手だなんて知らないでしょう。「あなた、きれいな声ね」なんて言われることもありますけど(笑)。ここは上手に歌うんじゃなくて、みんなで一緒に楽しく大きな声で歌う場所。声のリハビリにいいですよ。
プールで体幹を鍛え、発声練習も
――プールのリハビリはどうですか。 ウォーキングするんですけど、「これ、役に立つのかな」と思いながら始めました。でも、続けていると、水の中だとまひしている左足も前に出るんです。腰の痛みもとれるし。それに体幹をしっかりする効果があるようですね。ある時、時々、見かけるおばあちゃんに「あなた、上手になったわね」とほめられて、とてもうれしかったです。見てくれている人がいたんだって。 ――歌うためのリハビリはどうしていますか。 リハビリを始めたころは、ぼそぼそした声しか出ないし、息が続きませんでしたが、かなりよくなりました。発声練習は、音楽系の大学に通う娘の侑夕にやってもらっています。「ア・エ・イ・オ・ウ」とか。口をすぼめる「ウー」とか、横に伸ばす「イー」は難しいんですよ。左側がダメなので。「もっと舌を下げて」とか、「指が4本入るくらい口を大きく開けて」と指導されながら。だけど声を出すって、のどや口だけじゃなく、体幹の筋肉も必要だし、体全体のリハビリが発声につながっています。単純なことを繰り返すのがリハビリですね。
「絶対に以前のようにコンサートで歌いたい」
――リハビリ中とは言え、さすがにいい声ですね。単純なことを繰り返すのって、そうは言っても簡単なことではありませんよね。 絶対に前みたいにコンサートで歌うんだって思っています。私には歌しかないので、引退はしたくない。声を取り戻すためにできることはやります。それに私、ほめられるのが好きで、「頑張ったね」とか、「すごいね」って言われるととてもうれしいんです。ほめられて成長するタイプなんです(笑)。 ――発病してからリハビリがつらかった時期はありますか。 周りからは、脳出血をやった後も、「能天気で明るい」と言われることがあるんですけど、本当によくなるのか、自分なりに落ち込んで暗くなることもあったんですよ。でも、私が暗くなっても周りが暗くなるだけだから、リハビリは、楽しく、おかしく、愉快にやろうって考えてます。最近は、顔の筋肉の動きがよくなってきたことや、歌えるようになって気持ちの変化もあるのか、心底笑えるようになりましたね。