【社説】少数与党国会 国民に見える法案審議に
政権与党が少数となって迎えた国会は、言論の府の機能を取り戻す好機である。与野党で丁寧な議論を尽くしてもらいたい。 10月の衆院選後、初の本格論戦となる臨時国会が始まった。きのうは石破茂首相が衆参両院の本会議で所信表明演説をした。 就任直後の首相の演説は、自民党内の異論に配慮してか「石破カラー」を封印した。今回も新味はない。 あえて特徴を挙げるなら、国会運営のくだりだ。「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう真摯(しんし)に、謙虚に取り組む」と冒頭に語った。 衆院選の民意は与党に過半数を与えず、与野党伯仲の状況をつくった。数の力に物を言わせた「自民1強」とは違い、野党の協力を得なければ予算案も法案も通らない。 厳しい環境は首相も重々承知しているようだ。言行の一致に期待する。 今国会で法案審議や合意形成の過程を変えなくてはならない。開かれた国会の場で、法案採決までの議論が国民に見えることが重要だ。 まず改めたいのは、自民党政権の慣行だった法案の事前審査である。政府が法案を国会に提出する前に、自民の了承を得る仕組みだ。 国会で過半数の議席があったため、事前審査に通れば法案の成立は確実になる。国会の法案審議を形骸化させる弊害は大きい。 しかも党内論議は公開されない。どのような経緯で法案がまとまったかが明らかにならない問題点もある。 今国会に向け、自民、公明の両与党は国民民主党を加えた3党で経済対策の協議を重ねた。与党は国民民主の政策を受け入れ、法案に賛成してもらう腹積もりだ。 国民民主の幹部は「103万円の壁」の引き上げに3党が合意すると、まだ審議が始まっていない補正予算案に賛成する考えを示唆した。 国会前に政党間で調整が必要なこともあるだろう。協議は否定しない。とはいえ、開会前に法案の賛否に言及するようでは形を変えた事前審査になりかねない。 野党第1党の立憲民主党にも注文しておきたい。衆院予算委員会をはじめ多くの委員長ポストを獲得し、国会運営の重責を担う。野田佳彦代表が唱える「熟議と公開」を実践する力が試される。 石破首相は所信表明演説の冒頭と締めくくりに、1957年の石橋湛山首相の施政方針演説を引用した。議論を重ねて協力すべきところは協力し、一部の利害でなく、国民全体の福祉を考える大切さを訴えた部分である。 石橋氏はさらに演説で「国会に国民が寄せる信頼は、民主主義の基」と説いた。 自民派閥の裏金事件で、国民の政治に対する信頼は大きく損なわれた。「民主主義の基」を取り戻すことも、今国会で与野党が背負う課題だ。
西日本新聞