清少納言も道長もハマってしまった…歴史を動かした「源氏物語」の闇【光る君へ】
もう一人、『源氏物語』から悪影響を受けた人物が…
このように、まひろとききょうの友情にヒビを入れることになってしまった『源氏物語』だけど、もう一人悪影響を受けてしまった人がいる。それは政とまひろ以外のことについては、どこか抜けている道長くんだ。 娘の彰子と敦康親王が、キャッキャウフフしてる現場を見て「あ、これどこかで見たことある! 光る君と藤壺だ!」と察してしまい、敦康に過剰な警戒アラートを鳴らす結果になってしまった。もし道長が『源氏物語』を読んでなかったら、2人の仲良し現場を見ても、気にせずスルーしていたかもしれない。物語の意外な功罪だろう。 SNSでも「普段の道長なら絶対気づかないであろう敦康親王から彰子様への矢印、まひろの源氏物語を履修してたおかげで気づけとる」「源氏の物語が道長への呪いになってる・・・」「源氏物語が現実の政治を動かした」「フィクションと現実の区別がつかなくなってる天下人がいるぞ」「元カノの創作、そこまで真に受けんなよ」などの道長への苦情と、虚構が歴史を動かすという、そのドラマティックさに震える声の両方が聞かれた。
まぶしき闇となり、現実に波紋を広げはじめた『源氏物語』
道長が敦康親王を彰子(=自分たちの勢力)から遠ざけようとするのは、自分の孫である敦成親王を擁立するためというのは、誰の目から見ても明らか。しかし『光る君へ』では、そんな政治的な思惑100%ではなく、実際に2人が非常に仲良しだったという事実と、『源氏物語』の藤壺の宮のエピを重ねて「娘に付いた悪い虫を遠ざけようとする父心」という、思いがけなくはあるけれど、なかったとも言い切れない絶妙な説を絡めてきた。 清少納言の件といい、この彰子&敦康親王のピュアな関係への影響といい、まさに「まぶしき闇」となって現実に波紋を広げはじめた『源氏物語』。強いパワーを持つ物語が、作者の手を完全に離れて、現実世界に良くも悪くも影響を与える例は多々あるけど、平安時代ではまだ誰も経験がしたことがない現象だろう。非凡なセンスと知性によって、まひろがどのようにこの「闇」と向き合っていくのか。これが彼女の後半生の、大きな鍵となりそうだ。 ◇ 『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月13日放送の第39回「とだえぬ絆」では、道長が敦成親王を天皇にする野望を加速させていく様子と、まひろの一家に思わぬ悲劇が降りかかるところを描いていく。 文/吉永美和子