なぜ伊調の連勝は止まったのか?
ものごとには必ず終わりがやってくるのだと知ってはいても、予想しないタイミングでそのときがやってくることがある。夏のリオ五輪で4連覇を狙うレスリング女子58kg級の伊調馨が、ヤリギン国際の決勝で、オホン・プレブドルジ(22歳、モンゴル)に喫した13年ぶりの黒星は、まさに予期せぬ出来事だった。 過去3大会の五輪に続き、4回目のリオ五輪も金メダル確実と言われる伊調馨に何が起きたのか。大会が行われていたロシアからの帰国便を待っていた報道陣は、事前に漏れ聞こえてきた「首のケガ」の状態を確かめたるため、出国ロビーに現れた彼女に確かめた。 「ケガはしていますけど、負けたこととは関係ないです。(負けた決勝戦は試合の)立ち上がりがだめで、後半も修正できないまま終わってしまった。いい勉強になりました。成長するきっかけにしたい」 試合の勝敗と首のケガは関係がないこと、と伊調は言うが、かなり悪い状態だった。 決勝のプレブドルジ(モンゴル)戦の前半、2回入ったタックルはいつものスピードと正確さを欠き、足腰が強い相手の返し技から失点、前半を0-5とリードされた。セコンドについたコーチはこのとき、首の状態がかなり悪いとはっきり気づいた。後半も伊調がしかけたタックルを返され失点、というパターンが続き、5分9秒、0-10のテクニカルフォール負けとなった。 試合が終わって初めて、伊調は首の不調をコーチ陣に打ち明けた。しかし、そのために負けたのだとは決して言わなかった。痛みも伴っているだろうに素振りも見せず、身近な人間にも隠し通して試合に出ていた。言葉は多くなかったが敗戦の悔しさは募っていたようで、「返し技を覚えればいいんですかね」と漏らした。というのも、今大会ではことごとく「返し技有利」の判定がくだっていたからだ。 日本人がレスリングとして思い浮かべるのは、おそらく吉田沙保里に代表されるタックルの姿であり、タックルして攻撃することの評価も高い。ところが、今年で27回目となる大会名の由来である故イワン・ヤリギンや、同地のレスリングクラブ出身で五輪3大会金のブバイサ・サイティエフなど、ロシアにはわかりやすいタックルをしない選手も多い。そのため、どちらも得点したと主張できるような体勢になったとき、攻撃を仕掛けた方ではなく、あくまでも最終的に相手をコントロールした側が優勢であると判断する傾向が強い。