声の専門家が選ぶ「現役最強のイケボ俳優」は? 決定版(1)威厳と迫力がスゴい…プロ絶賛の表現力の持ち主は?
男性は目で恋をし、女性は耳で恋をする―。英国の作家ウッドロー・ワイアットが遺した格言だ。この言葉の真偽はさておき、“いい声”が人の魅力を高めるのは確かなようだ。そこで今回は日本美声チューニング協会の三浦人美会長に「最高のイケボ俳優」の選出を依頼。そこから垣間見えたのは彼らの弛みない努力の跡だった。(取材・文:司馬宙)
豊川悦司
―――最初にご紹介いただくのは、『地面師たち』などの話題作に出演されている豊川悦司さんです。 「豊川さんの声は、低音が気持ちいいですよね。一般的に、低音って、ブザーみたいにトゲトゲした音になりがちなんですよ。でも、豊川さんは声がきれいで、太さも一定なので、とても聞きやすいです。 あとは、声の共鳴も素晴らしいですね。発声解剖学では、よく通る声って『血に乗る』んです。で、声を血に乗せるには、まずは上半身の筋肉を柔らかくして、血のめぐりを柔らかくする必要がある。お相撲さんが美声なのは、ここに由来があります。 その点、豊川さんはしっかり通る声をされていらっしゃる。身体の使い方がとてもお上手な方だと思いました」 ―――豊川さんは演劇出身の方なので、日常的に声を鍛えてこられたのかもしれないですね。ちなみに、豊川さんは、『地面師たち』で詐欺集団の親玉ハリソン山中を演じられていました。かなり威厳のある役でしたが、低音の声と威厳というのは関係あるのでしょうか。 「ありますね。ゆっくりとしたリズムで低音を効かせることで、威厳が出ます。ただ、ハリソン山中の役は、嫌味ったらしさを出すために、あえて語尾を上げている印象です」 ―――同じ低音でも、役やシーンによってバリエーションを加えているんですね。ちなみに、低音を効果的に出すときには、どのようなことに気をつければいいんでしょうか。 「よく言うのは、冬場の窓ガラスをそっと温めるような空気ですね。あまり圧をかけすぎるとダメで、抑制してそっと出す必要があります。その点、がなり声や叫び声よりもはるかにハードルが高いです」 ―――よくカラオケで低音の曲は難しいと言われますが、それと一緒ですね。 「そうなんです。しかも、低音って、遠くまで響かないんですね。だから表現者は発声を抑えつつも遠くまで響かせないといけない。これが、どれだけ至難の業かということです。 しかも、役者さんの場合は、声優さんやボーカリストと違ってこれに身体の演技がついてくる。なので、いつも『エラい仕事やなあ』って思っています(笑)」 ―――確かに、三浦さんが選ばれた5人は、みなさん低音がしっかりされていますね。 「そうですね。とりあえず低音がしっかり出せる役者さんは抱え込んでおいて損はないと思います(笑)」 ―――(笑)豊川さんは、5人の中では最年長者ですが、声を維持し続けているのはどのような理由があると思いますか。 「やっぱり日々のトレーニングですね。筋肉というのは、使えば使うほど圧縮されるので。逆に、さぼっているかどうかも、声からバレちゃいます」 ―――それは怖いですね(笑) 「結構いらっしゃいますよね、ガラガラ声の俳優さん。あれは、老化で喉がのびきってしまっているんです。 反対に、アニメの声優さんが70代を超えてもキャラクターを演じられているのは、日々のトレーニングの賜物ですね」 【日本美声チューニング協会三浦人美会長 プロフィール】 発声解剖学をベースにした声を出しやすい身体に整える美声チューニング®を提唱。20代はバンドのボーカルとして芸能事務所へ所属。年間300本のライブをこなし歌い続けた経験の中で発声・姿勢・呼吸等、身体のアプローチから声を変えていく手法を実践。バンド活動の終了後は、講師として稼働をスタート。人前で声を扱うことが多い企業代表や芸能事務所所属のアーティストレッスンまで延べ3,000 人以上の方を指導する。
司馬宙