「40人中39位」でパリ五輪に滑り込み…女子ハードル田中佑美(25歳)が振り返る“大舞台までの苦悩”「ギリギリの出場…怖気づく場面もありました」
初の五輪代表は「40人中39位」の土俵際から
真夜中にふと目を覚まし、眠い目をこすりながらスマホを手に取り、ランキングのページを開いた。40人中39位――なんとか踏みとどまり、初の五輪代表を勝ち取ったのだ。 「単純にうれしくて、ほっとした気持ちが一番。でも、本当にギリギリの出場だったので、本番までは怖気づく場面がかなりあったなと思います」 田中が振り返るのは、パリの事前合宿地でのオンライン取材のこと。 前年のブダペスト世界選手権に出場し、今春のオフにはファッションモデルにも挑戦した彼女には各メディアから大きな注目が寄せられていた。 「記者の皆さんが『頑張ります! 』とか『準決勝に進みます』という回答を期待しているのは感じていました。私自身、ブダペストの後悔をどうにかしたいという気持ちは明確にあって。でも、それを口に出すのがすごく不安だったんです」 田中は以前のインタビューでも「目標を口にするのは得意ではない」と話していた。加えて、“下から2番目”という立場が、その不安を増長させていたのだろう。 「口に出して失敗したらどう思われるんだろうって。ギリギリで滑り込んで、一番脚が遅いんだからもう出られるだけで十分じゃない? とも考えてしまいました。代表に決まるまでに感情が大きく揺さぶられたことで、燃え尽きまではいかなくとも、疲弊してしまった面もあったのだと……」
パリでは「自分のやりたいことをできるかどうか」
ただ、事前合宿地で練習を重ねるなかで、徐々に「外」に向けていた視線が「内」に集中していくようになったという。 「オリンピックだから頑張るというより、自分のやりたいことをできるかどうかだけだなって」 やりたいこと。それはフライングを恐れずに飛び出し、トップスピードに乗ることだった。 「ブダペストはフライングが怖くて、どうしても思い切って出られなかった。でも、パリではそういうマイナスなことがまったく頭を過らないメンタリティでスタートに立てていたんです」 その予選はスタートで勢いよく飛び出し、果敢に攻めた。ただ、後半のハードルに抜き足をぶつけ、ラストの伸びを欠き、2組5着で12秒90。着順では準決勝に進めず、敗者復活戦に回ることになった。 今大会から設けられた敗者復活戦について、田中は当初、そこまでよい印象を持っていなかったという。 「もし予選で全然走れなくてボロボロで、『ああ、世界はこんなに遠いんや』って感じた後に、もう一回敗者復活戦に挑むのは緊張するし、嫌だなって(笑)。打ちのめされた直後に、もう一回挑みにいくってしんどいじゃないですか。でも、予選でちゃんと攻めることができたから、次はここを修正しようとすぐに切り替えられたんです」 前向きに臨めたのは、予選でそれなりの手応えを得ることができたからだろう。 翌日の敗者復活戦、田中は混戦の中、セカンドベストに並ぶ12秒89をマークして3組2着でフィニッシュ。見事、準決勝に「復活」を果たしたのだ。 「1着のフィンランドのハララ選手とは別のインドアレースで一緒に走ったことがあったんです。お互いに抱き合って、ワーワーワーって(笑)。その場ではもう言葉になりませんでしたね」 その田中は、予選のスタート前やミックスゾーンでのインタビューで軽やかな笑顔を見せ、それがネット上で大きな話題にもなった。中編では、五輪後の反響やモデル挑戦の背景、ビジュアル面での注目への率直な思いも聞いた。<次回へつづく>
(「オリンピックPRESS」荘司結有 = 文)
【関連記事】
- 【つづき/#2を読む】「私の仕事は走ること。でも…」陸上・田中佑美(25歳)が“モデルハードラー”の肩書に思うこと「違う角度からファンを呼び込むのも大切だと思います」
- 【つづき/#3を読む】「世界記録保持者でもこんなに苦労するんだ…」女子ハードル田中佑美(25歳)がパリで感じた“世界との距離”「決勝はもう一段階、上の実力がないと」
- 【写真】「えっ、何頭身なの…?」172cmの“モデルハードラー”田中佑美(25歳)女性誌でも披露の長~い手足とバキバキの腹筋。試合での迫力のハードル飛越に、爽やかな私服インタビュー特撮も…この記事の写真を見る
- 【あわせて読む】0.03秒差の明暗…“史上最高レベル”日本選手権でハードル女王・福部真子(28歳)と2位・田中佑美(25歳)が語った「ライバルたちとの絆」
- 【こちらも読む】「40人中39位」で滑り込み内定…女子ハードル田中佑美(25歳)に見る「モデル挑戦だけじゃない」“五輪戦略”の重要性「標準記録はマストではない」