Kビューティが米国を再席巻 TikTokとグローバルを見据えた果敢さで今後も成長予測
Kビューティが世界的なブームになってから約10年。米国では新たな韓国のビューティブランドが急速に台頭し、Kビューティがさらに盛り上がっている。 米ニューヨーク・ブルックリンのウィリアムズバーグには最近、韓国のビューティストア「センティ センティ(SENTI SENTI)」の2店舗目がオープンした。同店は2009年に中国系アメリカ人姉妹のウィニー・ジョン(Winnie Zhong)とサンディ・ジョン(Sandy Zhong)がチャイナタウンにオープンした「oo35mm」の後身となる店舗で、最近はTikTokでのブームから多くの若者が来店している。  <p>店舗面積約180平方メートルの店内には、韓国最大手ビューティ企業のアモーレパシフィック(AMOREPACIFIC)による「ラネージュ(LANEIGE)」「イニスフリー(INNISFREE)」「エストラ(AESUTRA)」や10年に創設した韓国発スキンケアブランド「クレアス(KLAIRS)」など、米国で最初にKビューティがブームを迎えた10年代と変わらない顔ぶれから、「アヌア(ANUA)」「アイム フロム(I’M FROM)」「ビューティ オブ ジョソン(BEAUTY OF JOSEON)」「ミクスン(MIXSOON)」「ラウンドラボ(ROUND LAB)」「トコボ(TOCOBO)」など、今急成長を遂げているインディーズブランドを含む約165のブランドを取りそろえる。</p> <p>特に「ビューティ オブ ジョソン」や「ラウンドラボ」などの主力商品である日焼け止め商品は、FDA(米食品医薬品局)承認基準よりも強力なUV効果を備えており、20ドル(約2900円)未満で購入できると人気が急上昇している。</p> <p> </p> <p></p> 火付け役はTikTok 「マーケティングに基づいていない」トレンドが鍵 <p> 美容トレンド予測会社スペート(SPATE)によると、アモーレパシフィックが共同所有し、カタツムリ分泌液を配合した美容液“アドバンスド スネイル96ムチン パワー エッセンス”で知られる「コスアールエックス(COSRX)」は、TikTokでの週間平均視聴回数が1510万回、前年同期比245.6%増を記録しているという。これは「アヌア」に次ぐ2位で、スペートのヤーデン・ホルヴィッツ(Yarden Horwitz)共同設立者は、「アジアのビューティブランドは、ASMRを含む画面上で伝わる感覚的なテクスチャーを作り出すことに長けている」と分析する。 一方1位の「アヌア」は“ハートリーフ ポア コントロール クレンジング オイル”(17ドル、約2400円)を中心に、週間平均視聴回数1710万回、同578.3%増となった。マーケティングコンサルタント会社のマーケット ディフェンス(MARKET DEFENSE)によれば、同商品は7月のアマゾンプライムデーで最も売れたクレンジングオイルで、サイト全体で10万個以上を売り上げている。マーケット ディフェンスのヴァネッサ・カイケンダル(Vanessa Kuykendall)=チーフ エンゲージメント オフィサーは、「消費者のブランド認知にTikTokが大きく影響していることは明らかだ。アマゾンでの『Kビューティ』の検索数は同54%増で、月間検索数は11万2000件に達した」と語る。 12年に韓国コスメオンラインプラットフォームのソーコーグラム(SOKO GLAM)を立ち上げ、18年にスキンケアブランド「ゼン アイ メット ユー(THEN I MET YOU)」を創設したシャーロット・チョー(Charlotte Cho)創設者は、「KビューティはTikTokを通して再考されている。新世代はトレンド、商品、成分を彼ら独自の方法で解釈している」と分析し、「肝心なのは韓国の美容トレンドやルーティーンがマーケティングに基づいていないこと。これこそがKビューティが第2、第3の進化を遂げ、業界に大きな影響をもたらしてきた理由だ」と続ける。  </p> 「4年前、米小売業者は韓国ブランドに興味がなかった」 <p> 17年、「コスアールエックス」のアルタビューティ(ULTA BEAUTY)への導入を先導した人物で、以降も米国市場参入を目指す他の韓国ブランドと提携してきたランディング インターナショナル(LANDING INTERNATIONAL)のサラ・チャン・パーク(Sarah Chung Park)最高経営責任者(CEO)は、「4年前までは、米国の小売業者は韓国ブランドに全く興味を示していなかった。だが今ではほぼ全ての小売業者が韓国ブランドの導入について話し合っている」と明かす。 またチャン・パークCEOは、TikTokで人気を博し、アマゾンでも大きなシェアを持つ「ミクスン」をコストコ(COSTCO)200店舗に導入するという。これは米国市場に参入する韓国ブランドにとって最も主流のルートで、同氏は売上予想についてコメントしなかったが、業界筋は「ミクスン」がコストコで初年度500万ドル(約7億3000万円)の売り上げを達成できると見ている。 </p> <p> 「最初のKビューティブーム時、韓国ブランドは米国に販売チャネルを持っていなかった。アマゾンは成長前で、TikTokも存在しなかった。米国の消費者は韓国美容についてよく知らず、クールなものとはみなしていなかった」とチャン・パークCEOは振り返る。だがこの数年で、BTSやENHYPEN、BLACKPINKなどの韓国のアイドルグループが「グッチ(GUCCI)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ディオール(DIOR)」といったラグジュアリーブランドのアンバサダーに次々と起用され、ニューヨークやロサンゼルスには韓国の話題のレストランが数多くオープンするなど、韓国の文化やトレンドが米国に与える影響は顕在的なものとなったことで流れが変わった。 </p> グローバル市場を見据えた果敢な姿勢 <p> エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)の元エグゼクティブグループプレジデントで、韓国小売大手の新世界のジョン・デムジー(John Demsey)=シニアアドバイザーは、「韓国には勢いがある。韓国の美容ブランドもグローバルを見据え、多くのビューティ企業が米国市場に深く浸透するための組織改変に取り組んでいる」と考察する。 TikTokで人気の「ティルティル(TIRTIR)」は、アマゾンで最も売れているファンデーション“マスク フィット レッド クッション”(2970円)で知られているが、昨年まで主要な市場であった韓国と日本の消費者の肌に特化し、ファンデーションを3色のみ提供していた。しかし今春、米国のインフルエンサーのゴロリア・ジョージ(Golloria George)から「多様な肌色に対応していない」と非難を浴び、わずか3カ月足らずで30色まで商品群を拡大した。ジョージはその後、同ブランドのアンバサダーに就任した。「ティルティル」のライラ・キム(Lyla Kim)=グローバルビジネスマネージャーは、「米国で発売した時は、私たちの処方が米国市場に適しているのか確信が持てなかったが、インフルエンサーのフィードバックを得てシェードを拡大することを決めた」。8月にはさらに10色追加し、合計40色に拡大。今後TikTokショップに出店するほか、10月にはニューヨークで米国初のポップアップストア開催も控える。  ピークを迎えるのはまだこれから <p> 今後「ティルティル」のようなブランドが、米国のメイクアップトレンドに影響を持つ可能性は十分にある。スペートのホルヴィッツ共同設立者は、「韓国のスキンケアムーブメントは最も重要な分野だが、メイクアップも勢いを増している。人々はK-POPアイドルの特徴的な“アイドルメイク”を新たなトレンドとして注目している」と述べ、過去2年で中国の“ドウインメイク”がトレンドになっていることも指摘。ドウインメイクは特徴的なハイライト、適切な場所へのチーク、リップステイン、まつ毛を特徴とし、話題となった。 TikTokでは、「韓国メイク」の週間平均視聴回数は1480万回で、同622.9%増となっている。またスキンケアやメイクアップ以外にも、韓国発のアイウエアブランド「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」から派生したビューティブランド「タンバリンズ(TAMBURINS)」やボディーケアブランド「リリス(LILIS)」が台頭し、Kビューティのあらゆるカテゴリーでの人気拡大の可能性も示している。 </p> <p>18年に「ピーチ アンド リリー(PEACH&LILY)」と姉妹ブランドの「ピーチ スライセズ(PEACH SLICES)」を創設し、しっかり保湿されたハリのある肌を指す“グラススキン”を広めたアリシア・ユン(Alicia Yoon)創業者は、「私たちはもはや『韓国の』ブランドであることを重要視している訳ではない」とコメント。両ブランドはアルタビューティで取り扱われ、「ピーチ スライセズ」はウォルマート(WALMART)とCVSでも販売。昨年秋には合計純売上高が1億ドル(約1460億円)に達したという。 </p> <p>新世界のデムジー=シニアアドバイザーは、「Kビューティは一時的な流行ではなく、業界全体の再編。米国と韓国のように消費者のクロスオーバーが見られる市場は他にはないと見る。また、グローバル マーケット インサイツ(GLOBAL MARKET INSIGHTS)のデータによれば、Kビューティ市場は22年に95億ドル(約1兆3800億円)と評価され、23年から32年の間には年平均成長率5.7%で成長すると予測されている。ランディング インターナショナルのチャン・パークCEOはKビューティについて、「消費者はアジア人だけではない。若い世代を中心とした全ての人種のためのものだ」と話した。 </p> </p> 【画像】Kビューティが米国を再席巻 TikTokとグローバルを見据えた果敢さで今後も成長予測