においはすごいが可能性もすごい 「ギンナン」グルメ化に励む町
ギンナンの臭いの秘密は?
ところでイチョウといっても、すべての木にギンナンができるわけではありません。メスの木とオスの木があり、オスの木にはギンナンはなく、あの独特のにおいも発しません。メスの木のみにできます。 くさみがあるのは、ギンナンの殻の外側にある「果肉のような部分」。秋になってギンナンが熟すと、この部分がにおいを放ち、軟らかくなって落下します。皮膚に触れると炎症を起こしてかぶれる場合もあります。 「ギンナンの実」、「果肉のような」などと表現されることも多いように、見た目は実のようです。しかし、裸子植物のイチョウには果実になる部分である子房がないため、実とは呼べないといいます。 「植物学的には、ギンナンは“種子“です。周りの軟らかいところは外種皮(がいしゅひ)といわれ、文字通りタネの外側の皮。固い殻も種皮の一部です」と木口さん。 私たちが食べるのはタネの部分。特有のにおいの元は、殻の外側を覆っている皮にありました。 ただ、においの原因物質は、先述のように酪酸などともいわれますが、成分やメカニズムについて詳しいことはわかりませんでした。 一方、「におわないギンナン」もあります。JA愛知西の百井さんは「ギンナンはお盆明けから出荷が始まりますが、その頃から10月中旬までは、びっくりするほどにおいがありません。緑色のときはくさみがまったくないのです。イチョウの葉が色づき、ギンナンが熟して黄色になると、ご存じの通りです」と教えてくれました。 しかし時期に関わらず、傷がつくとそこから発酵が進むそうで、商品としては傷つかないよう気を配っているといいます。
ギンナンが苦手でも楽しめるギンナングルメ
一大産地の祖父江町では、ギンナンの楽しみ方もひと味違います。 飲食店には、ぎんなんおこわをはじめ、粒がゴロンと入った「銀杏ラーメン」や「銀杏コロッケ」、菓子店にはギンナンを使った生菓子、和菓子、洋菓子など幅広く揃います。 こうした特産品は、商工会やJAが2008年頃から町内の店やメーカーとともに開発しました。初めは、試行錯誤の連続だったと商工会の足立さんは振り返ります。 「ギンナンはなじみのある味でも、ギンナンを使った加工品はどんな風味になるのか。当初は何もわからないままにスタートしました。消費者や展示会のバイヤーに意見をもらいながら改良を重ね、中には食品工業技術センターなど専門家の力を借りたものもあります。イチョウの花酵母を使って醸す日本酒は、成功まで2、3年かかりましたが、フルーティーな味わいの特産品になりました」。 創業80年以上の「花乃屋菓子舗」では、「銀杏ういろ」や「銀杏かすてら」など7種類の菓子に仕上げました。ギンナンは、細かく刻む、ミキサーですりつぶす、乾燥させてパウダー状にする、など使い方を様々工夫しています。 創業70年以上という大橋米店は、小麦を粉状にする「精麦」で麺類もつくっていた経験から、「ぎんなんきしめん」を完成させました。麺は鮮やかな緑色です。「黄色いギンナンは熟しすぎて苦味を感じるので、新鮮な緑色のものを使っています」。4代目当主の大橋尚毅さんは語ります。 きしめんの開発は、先代が町の要望を受けて進めました。「私はまだ学生でしたが、何度も試食しました。初めのころは、麺をゆでると千切れてボロボロになっていましたね。きしめんというより、すいとんのような感じで。ギンナンの使い方や配合比率はかなり試行錯誤していました。当初は乾燥させて粉末にしましたが、結局うまくいかず、ゆでてペースト状にして小麦粉に練り込むことにしたのです。練り込む量も微妙で、ギンナンが多いと生地が結合しにくく、配合率を何度も変えました。たどり着いたのが15%という割合。完成するまで3、4年かかったと思いますが、通常の製品よりコシが強く、食べごたえのある麺が生まれました」 特産品は、風味もいろいろです。 ういろやだんごなどは、あの特有のにおいがふわりと漂います。風味を生かしていますが、ギンナン好きには物足りなく感じることもあるとか。 一方、和風フロランタン「陽のあたる場所」はアーモンドの香ばしい香りを楽しめ、パイ菓子「ぎんなんパイパイ」もザラメの甘さやサクサク食感が魅力で、ギンナンの風味はほとんど感じません。 これらの多くは「親しみやすい味」を目指しているといいます。ギンナン好きでなくても気軽に「ギンナングルメ」を楽しめそうです。 こうしたバラエティー豊かな特産品も、地域ブランドの「祖父江ぎんなん」も、そして黄金色に染まる風景も一度に楽しめるのが、同町で恒例の「そぶえイチョウ黄葉まつり」。今年は11月23日から始まっており、12月2日まで町内の祐専寺や山崎駅周辺を会場に開かれています。 各地でも、黄葉あるいは紅葉が見ごろを迎えるシーズン。行楽の秋と食欲の秋を満喫しにぶらりと出かけてみてはいかがでしょう。 (南由美子/Newdra) <プロフィール> 南由美子/愛知県生まれ。飲料メーカーや編集プロダクション勤務を経てフリーのライターに。中部エリアの地域情報ポータルサイトや、広報誌での食関連記事などの制作に携わる。Newdraのメンバー。