【メジャー2024「データ野球」の内幕】データ偏向主義が野球をつまらなくしている…先鞭つけた元編成責任者が主導したルール改正
【メジャー2024「データ野球」の内幕】#5 昨シーズン、MLBは、選手が「当たり前のプレーを当たり前にする」ために大きなルール改正を行った。 【写真】編成責任者やGMに「頭のキレる元選手」がトレンド…フロントと現場とのコミュニケーション役にうってつけ ルール改正の先頭に立ったのは当時、MLBで「On Field Matter(平たく言えばフィールドでのプレー全般)」についてのコンサルタントとして働いていたセオ・エプスタインである。 エプスタインといえばレッドソックス、カブスをワールドチャンピオンに導き、その手腕により有名経済雑誌フォーチュンマガジンにおいて2017年最高のリーダーとして取り上げられた人物だ。 早くからデータ分析や斬新な戦略を取り入れ、2つのチームをメジャーの頂点に導いた彼が、その手法を自ら否定するかのようなルール改正に大きな役割を担ったのである。 例えば守備シフトの禁止について、「シフトこそ知性主義の行き過ぎた例のひとつ」とし、「試合の勝負を決するのはフロントからの指示ではなく、実際にプレーをする選手のプレーそのものであるべき。左打者の痛烈なゴロに飛び付き、捕球し、体勢を立て直し、素早く一塁に送球して打者をアウトにする、そんな二塁手のファインプレーこそが試合の勝負を決するべきだし、野球における当たり前のプレー、ファンが見たいのもそのようなプレーである」と言っている。 アウトになるリスクを冒してまで盗塁をすることはない、という以前の自説を覆すようなベースのサイズの変更も主導した。 おかげで2023年リーグ全体の盗塁は3503個、前年の2486個から1000個以上増えた。今季、大谷が成功した59個の盗塁は、このルール改正の影響も否定できないだろう。 彼の言う知性主義(これはデータ偏向主義とも言えるかも知れない)こそが野球から本来の姿を奪い、面白くないものにしているのだという。投げて、打って、走って、捕る……それこそ野球本来のプレーであり、それらで満たされた試合こそが野球の面白さということだ。 ピッチクロックの導入もしかり。これは年々、長くなってきた試合時間の短縮が本来の目的ではない。試合中、何も起こっていない時間を減らして、もっとアクションを増やそう、というのが真の狙い。早く投げなさい、早く打ちなさい、どんどん走りなさい、守るべき場所で守りなさい、ということなのである。 結果としてメジャーにおける試合は、よりプレーそのものにあふれ、スピーディーで楽しいものになったと言えるのではないだろうか。 とはいえ、データ分析がこの先細っていくことはあり得ない。あくまでも試合に勝つため、選手個人のパフォーマンスを上げるため、相手に対しアドバンテージを生み出すために各チームは引き続きその分野でしのぎを削り続けてゆくはずだ。 =おわり (米紙コラムニスト=ビリー・デービス)