永瀬正敏58歳「永遠に追いつけなくなってしまった」存在が、役者を続ける理由に
『箱男』の役作りは愛猫と一緒に
――公開中の『箱男』のことですね。箱男になるために、27年前も今回も、撮影前の日々、実際に箱に入っていたそうですね。 永瀬:今回は自分の部屋で。うちには猫がいるのですが、2人で一緒に入って外を覗いてました。 ――猫は段ボールが好きですし。 永瀬:でも彼も最初は、黙って廊下から「変なのが来たぞ」と見てるだけでした。そのうちに箱の中からする僕の匂いに気が付いて、近寄ってきて「入れろ」と言い始めました。それで中に入れたら今度は全然出ない(笑)。普段、あまり抱っこは好きな子じゃないんですけど、中でずっと抱っこしてました。
安部公房の写真に、その美学を感じた
――今回演じた「わたし」はカメラマンです。永瀬さん自身、写真家としても活躍されています。本編に登場する箱男が撮った設定の写真は、原作者の安部公房さん撮影の写真だとか。 永瀬:安部さんの世界をどのように映像化するかというところで、安部さん自身がたくさん撮られた写真もヒントになりました。安部さんの写真で面白いと感じたのは、安部さんの美学というか、切り取り方です。一般に美しいとされるものだけが美しいのだろうか、という切り取り方をされていると思います。キレイな花を撮るのではなく、朽ちたものを撮って美しさを表現する。そういったところが、安部さんにはあると思いました。 ――今年2月には、第74回ベルリン国際映画祭で、『箱男』がワールドプレミアされました。そのとき、「出展作品の中でもっともクレイジーな作品」と称されたと。 永瀬:そうなんです。みんなで「よっしゃ!」と思いましたね。日本の文学をもとに、日本人の俳優、スタッフ、監督が日本で撮影した作品です。もちろん日本から来ていただいたお客さんもいらっしゃいましたし、ドイツ以外のお客さんもいらっしゃいましたけど、反応を見ていて「通じているな」ということと、「現代性」をすごく感じました。
今はスマホという箱の中の世界を生きている
――50年前の原作ですが、永瀬さん演じる「わたし」は今の現実社会と繋がっているように映ります。 永瀬:知らない世界を「面白い」と感じてもらっているのではなくて、体感してもらっている感じがしました。それこそ「わたし」になってもらっている感覚があって、同じようにビクっとされるし、同じように笑ってくれるし、同じように心の中で走っていただいているのが分かりました。「通じるんだな」と。 それから、石井監督と久しぶりにお会いして『箱男』に取り掛かれるという話をしたときに、「箱ってコレ(スマホ)じゃない?」とおっしゃっていたんです。27年前は今のような世の中になっているとは思っていませんでしたが、今って、この箱(スマホ)の中の世界を当たり前に生きていると感じます。