山梨県内のリニア工事巡る3者合意 静岡県、専門部会の意見聴取せず 「政治判断」批判の声
「先進坑、本坑の議論なし」 山梨県内のリニア中央新幹線工事を巡る静岡県、山梨県、JR東海の3者合意について、静岡県が県有識者会議専門部会の意見を聴取しないまま合意していたことが2日までに、関係者への取材で分かった。専門部会は5月の会合で静岡、山梨県境付近での高速長尺先進ボーリング調査の実施を認めたが、その後のトンネル先進坑工事については可否の判断を示さなかった。専門部会関係者からは「政治的事情を優先させた判断」と3者合意の形成過程を疑問視する声が上がる。 5月の専門部会会合では、JRが県境付近で実施するボーリングについて「リスク管理ができると技術的な観点から確認できた」として容認した。一方、先進坑工事を巡っては、JRがボーリング湧水の管理値を超えた区間では湧水減少対策を講じて県境まで進める方針を示したものの、必要な管理値やモニタリング手法は議論しなかった。 こうした中、6月に結んだ3者合意では、ボーリングに加えて先進坑、本坑トンネル掘削工事の県境までの実施を認めた。静岡県の水が流出する事態を念頭に「健全な水循環の回復措置」をとり、具体的な内容は今後調整するとした。 専門部会委員の1人は「3者合意について何の相談もなかった」と明かした。その上で「ボーリング調査で県内の水がどの程度流出するのか判明するのに、合意に何も盛り込まれていない」と不満を示し「リニア問題の前進をアピールしているに過ぎない」と指摘した。別の委員も「3者合意の報告は受けたが、先進坑、本坑の議論は一切していない」とし、今後、県から求められれば、リスク管理やモニタリングについて科学的な観点で検討する意向を示した。 県は「ボーリング結果を踏まえ、先進坑のリスク管理を専門部会で議論することになる」との認識を示した。県境まで工事を進めるとの合意内容は山梨県側の強い意向だったとした。 〈メモ〉当時の難波喬司副知事(現静岡市長)が2022年10月、山梨県のリニアトンネル工事を県境付近まで進めることで大井川の水資源に影響が生じる可能性を懸念し、県専門部会での協議が始まった。その後、県は県境付近のボーリングについても実施の見合わせを求めたが、川勝平太前知事の辞任直後に開かれた24年5月の専門部会で県境付近のボーリングを認めた。部会委員は、断面積が300倍以上になる先進坑掘削時にはボーリング時より慎重な湧水管理やモニタリング手法が必要だと指摘した。
静岡新聞社