人気アニメの聖地巡礼、産業スパイ、最新の倉庫作業ーーメタバースならではの体験が続々
■なりきり衣装も登場 アニメ『きんいろモザイク』が『VRChat』に到来 開発スタートから10周年を迎えた『VRChat』に、新たなIPコラボが訪れた。放送10周年を迎えるアニメ『きんいろモザイク』の公式ワールドと、“なりきり衣装”が発表されたのである。 【画像】京セラが展開するメタバースワールド 同作は『まんがタイムきららMAX』にて連載された4コマ原作のアニメ作品で、放映が開始された2013年から劇場版が公開された2021年(と原作完結)まで、長く展開された人気作品。日英の異文化交流がテーマのひとつなっており、作中に登場したイギリスのコッツウォルズ地方・バイブリーは“聖地”として人気を博した。 そしてこのたび、このバイブリーを再現したワールド(3DCG空間)が公開されたのだ。村の隅々まで、約8000枚の写真を撮影し、フォトグラメトリによって再現された空間は、遠景ともなればもはや実写と見紛うほど。入口に設置されたタブレット端末には地図が表示され、その上に配置されたピンはテレポート位置であると同時に、アニメ版に登場したシーン表示してくれる“聖地巡礼”には欠かせないアイテムだ。 これだけでも十分にユニークな取り組みだが、同時に発売された公式“なりきり衣装”も注目すべきだろう。これは、メインキャラクターのアリス・カータレットと九条カレンの制服と髪型の3Dモデルがセットになった商品で、市販されている『VRChat』向けアバターの容姿を変更することができる。 キャラクターそれ自体の3Dモデルではなく「なりきり(コスプレ)衣装」というのがポイントだ。『VRChat』には市販アバターの服装や髪型などをカスタマイズして楽しむ「バーチャルファッション」というカルチャーがあり、「衣服」の需要や市場規模がかなり高い。セットの一部(パーカーなど)を別の衣服と組み合わせて使用することも想定されており、個人利用の範囲であれば自由に利用できる点をみても、ユーザーの需要や業界の動向をよく理解したタイアップであると評価できるだろう。 ■バーチャルオフィスで産業スパイごっこ MyDearestが仕掛けるユニークな企画 同じくユーザー理解度が高いことで注目を集めるVRゲーム開発会社・MyDearestも、一風変わった企画を仕掛けてきた。『VRChat』に公開した自社のバーチャルオフィスにて、なんと機密情報の窃盗をさせようというのだ。 もちろん、これはあくまでゲーム内の設定。集める“機密情報”は、同社の新作VRゲーム『Brazen Blaze』の最新情報であり、一通り集めるとここで初公開となるゲーム内ビジュアルを閲覧できる、という新作のプロモーション施策の一環である。 合わせて、同作のロビーエリアを移植した空間にも訪れることができ、「メタバースで新作VRゲームの舞台を訪問する」という体験型のプロモーションまで仕掛けている。 先週末にはこのロビーエリアを改造した空間で、ソーシャルVRで活躍するアーティストを招いた音楽イベント『MyDearest JAM 2024 -OPEN THE GATE-』が開催された。1月19日の前夜祭と、1月20日のメインイベントの計2日間、実力派のアーティストがステージに立ち、満員の現地会場や配信(と、それを視聴するためのサテライト会場)で、多くの人が熱狂した。 意外に思われるかもしれないが、実はソーシャルVRとVRゲームのユーザー層は少し遠いところに位置している。MyDearestは昨年のバーチャルオフィス公開以降、この2つのユーザー層をつなげるべく、様々な取り組みを展開している。イベントの副題として掲げられた「OPEN THE GATE」という一文は、双方のユーザーに呼びかけるメッセージそのもの。近いようで遠い、2つのVRコミュニティに橋をかける同社の取り組みは、2024年からフルスロットルで推進されている。今後も注目だ。 ■倉庫バイトで体験する物流業務効率化 京セラの「大人の社会科見学」が好調 『VRChat』では、ビジネス領域の施策でありながら、一般ユーザーの注目をも集める取り組みがたびたび登場する。その一つが、京セラによる公式ワールド展開だ。これまで機械工具、GANレーザーの2部門が、自らの事業をわかりやすく伝えるパビリオンを公開しており、その内容は「大人の社会科見学」として好評を博している。 そして京セラ3番目の施策として展開されるのが、スマートフォン事業だ。同社は今年、コンシューマ向けスマートフォン事業からの撤退を発表しているが、その一方で一般ユーザーに向けて法人向け事業・プロダクト紹介を目的に、あらたなワールドをひとつ公開した。 メインテーマは「高耐久スマートフォン」と、「物流業務の効率化」。アウトドアでも活躍するスマートフォンを倉庫作業の現場に採用すると、入荷も出荷も楽になる……ということを、実際に倉庫作業を体験することで理解してもらおうという取り組みだ。ちょっとしたバイト体験だが、「荷物のQRコードを読み込むと配置先がわかり、とても楽」という感覚を、身体を使って理解してもらおうという狙いだ。 同ワールドには同社のスマートフォンとそのユースケースを展示したパビリオンも併設されており、「京セラはスマホも手掛けている」ことをわかりやすく体験できる。社会科見学の場としても秀逸であり、幅広い年齢層にオススメできるメタバース活用例だ。担当者によれば、京セラ社内でも、反響のよさからメタバースの取り組みは好感触らしく、今後も新たなパビリオンが建設されそうだ。 ■“本家”によるバーチャル・スーパーカミオカンデが登場 一方、国産メタバースの『cluster』には、世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置・スーパーカミオカンデがやってきた。とはいえファンメイドではない。これは神岡宇宙素粒子研究施設の助教授が制作したもの――つまり、“本家”によるスーパーカミオカンデの再現空間だ。 世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置であり、ノーベル物理学賞にもつながった有名な施設だが、その内部へ行くことはできない。だがメタバース空間なら、それもできる。チェレンコフ光をエフェクトで擬似再現した空間で、内部に設けられた展示物と合わせて、この施設がどういったものであるかを体験を通して理解することができる。 同ワールドの制作に至ったきっかけとして、VR空間で遊び、国際宇宙ステーションの再現などに触発されたと、同施設で研究を行う家城佳助教は語る。学術方面とメタバースとの相性は、科学技術振興機構が発刊した調査報告書にて、「理系集会」や「バーチャル学会」といった学術系イベントが取りあげられていることからも裏付けられる。領域の最前線にいる人物・団体のメタバース参戦が、今年も続くことを期待したいところだ。
文=浅田カズラ