マヒの段階を簡単にセルフチェック! あなたに最適な訓練方法をご紹介!
どの段階の訓練法が自分に必要なのか
上肢のマヒの段階を簡単にチェックする方法があります。自分の腕と手のマヒの程度を確認して、どの段階の訓練法が適しているか調べましょう。 ■質問1)肘を伸ばした状態で腕が水平まで上がりますか? 座った姿勢を崩さないように! 正しい姿勢で座り、からだを反らしたり、肩をすくめたりしないように注意しましょう。 ■質問2)自力で指を開くことができますか? 手首の位置をまっすぐに! 手首を内側に曲げると自然に指が開こうとします。正確に判断するためには、テーブルや机の上に、手のひらを上に向けておき、手首の位置をまっすぐにした状態で開けるかチェックしましょう。
STEP別 訓練方法
STEP1(腕が上がらない人) ストレッチ+肩周りの筋肉を鍛える運動から ●マヒの程度と注意点 マヒした腕や手を動かさないままでいると筋肉の柔軟性が低下し、さらには拘縮という関節を動かせる範囲が制限された状態を引き起こします。一度関節が硬くなってしまうと改善するためには多くの時間を要します。また腕や手を動かす際には痛みを生じることもあるため、動かすことを避けてしまいます。 痛みによる苦痛は運動意欲を低下させ、“痛いから動かさない”、“筋肉や関節がさらに硬くなる”といった悪循環を生みます。 ●訓練ポイント 日頃からストレッチや関節可動域(関節を動かせる範囲)を広げる訓練をすることで、可動域に制限をつくらないことが大切です。すでに少し関節が硬くなっている場合でも、適切なストレッチを継続することで、筋肉の柔軟性は改善し、肩や肘の可動域を広げることが期待できます。 また、ストレッチに加えて肩周りの筋肉を鍛えることで、腕の動きの安定性を高めることが必要です。腕の動きを少しでも安定させることで、字を書く際に紙を押さえる、ペットボトルを開ける際に押さえるなど、「押さえ手」としてマヒ手を実生活場面で使用できることにつながります。 ●回復を促す治療法 筋肉の緊張が高くなっている痙縮(つっぱり)が動作の阻害になっていることが多いので「ボツリヌス療法」が適応となります。ストレッチと同様の効果のある「ハンドジグリング」も有効です。 また、肩周りの筋肉を鍛え、筋肉の萎縮を防ぐために肩関節周囲筋や手関節を背屈する(反らす)筋肉に「低周波による電気刺激」をおこなうことも有効です。 STEP2(腕は上がるが、手指を開けない人) 支える力を高める運動を中心に ●マヒの程度と注意点 腕は上がるのですが、全身(とくに肩周り)に余計な力が入ってしまうことが多いです。姿勢が崩れた状態で動かす、痛みがあるのに無理やり動かすといった誤った方法では効率的な運動にならない可能性があります。 ●訓練ポイント STEP2では肩・肘・前腕・手首を支える力(安定性)を高めて、腕全体の操作性を向上させることを目的にしています。各部位の筋力を高めるよりも、腕を動かす際に力が入りすぎないというような“動作の質”を高めることを重視します。そのため、訓練メニューには机上での訓練を多く紹介しています。 また、指の機能の改善を目的に、物をつまむ訓練をはじめ、マヒ手に生活用具を持たせて使用するなど、積極的に生活場面にマヒ手を参加させていくことが大切です。 ●回復を促す治療法 ボツリヌス療法が適応となります。一部、磁気刺激療法と集中的作業療法を組み合わせた「NEURO®」や最新療法の「体外衝撃波療法」も適応となります。また、ボツリヌス療法とNEURO®の併用療法、ハンドジグリングも有効です。 STEP3(腕が上がり、手指が開く人) 腕と手を滑らかに動かすために ●マヒの程度と注意点 腕は上がり、指を開くことができますが、実際に手を使う際にはぎこちない動きになってしまうことや、生活場面でマヒ手を十分に使えていないことも少なくありません。 ●訓練ポイント STEP3では、肩・肘・前腕・手首・指の滑らかな動きの獲得と、指先で物を固定する力や細かく指先を動かす能力を高めることを目的とします。 訓練する際は、訓練の量だけでなく、“動作の質”を高めることを意識します。手首や指を動かすときに肩周りに力が入ってしまうことが多いため、肩の力を抜くことや、適宜ストレッチをはさみ、からだを動かしやすい状態にしてから取り組むとよいでしょう。日常生活ではマヒ手を多くの場面に参加させ、手を使用する頻度を増やしていきましょう。 ●回復を促す治療法 NEURO®、またはボツリヌス療法が適応となります。ボツリヌス療法とNEURO®の併用療法も十分な効果が期待できます。ハンドジグリングも有効です。 STEP4(次の段階へステップアップ) 日常生活でどんどんチャレンジ! ●訓練ポイント STEP3の人は訓練を積み重ねながらSTEP4にチャレンジしてください。 STEP4では、肩から指にかけて、“より滑らか”で、“素早く”、“力強い”動きの獲得をめざします。STEP3の訓練メニューで重りをつけてみたり、時間や回数を設定してスピードをつけてみたり、からだに少し負荷をかけながら訓練をしてみましょう。 また、日常生活ではどんどんマヒ手を使用するようにしてください。積極的に手を使い、より難易度の高い動作の獲得をめざしましょう。 手を長時間使用した後は、ストレッチや筋肉を揉みほぐすなどのアフターケアをすることをおすすめします。疲れが溜まっている場合や、関節や筋肉に痛みがある場合は無理をせずに、からだを休めるようにしてください。 ●回復を促す治療法 磁気刺激療法と集中的作業療法を組み合わせたNEURO®が適応となります。
安保 雅博(東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座主任教授)