「教育虐待」がもたらす深刻な弊害…中学受験で子どもを毎日叱っていた親が口にした“後悔”とは
中学受験にこだわった夫は子どもを毎日叱り…夫妻が語る“後悔”とは
──その一方で、この流れとは正反対ともいえる「教育虐待」が近年問題になっています。親野さんはそのような関係にある親子と接したことはありますか? 私が知っている例では、中学受験を控えた親子が顕著ですね。中学受験が過熱し出したのは「勝ち組・負け組」という言葉が流行ったあたりから。そこから我が子だけは絶対に負け組にさせまいと躍起になる親がどんどん増え、今では我も我もと一種のブームになっていますよね。 ──親野さんは現在の中学受験ブームに関してどのようにお考えですか? 独自の教育方針を持つ私立の学校がたくさんあることはとてもよいことですし、子どもが自分はこういう教育を受けたいからこの学校に行きたいとか、親御さんがわが子にこういう教育を受けさせたいからこの学校を子どもに推薦したいというように主体的に進路を選べることも素晴らしいことです。でも、今の中学受験はブームになってしまっていて、みんなが受けるから受けるという感じの親子が多いのが実状です。その結果、校風よりも偏差値が優先されたり、中学受験に向かない子が無理な受験で消耗したりしています。まだ精神的に未成熟で自己管理力が育っていない子は、口では「受験したい」と言いつついざとなると勉強に集中できません。それで親御さんから叱られ続けて、親子関係が悪化したり自己肯定感が下がったりなどの深刻な弊害が出てきてしまいます。 ──実際にそのような事例を見聞きしたことはありますか? Aさんという女性の体験談が特に印象的でした。彼女の息子は小学4年から私立のB学園を目指して受験勉強を始めましたが、塾に通わせたり家庭教師をつけたりしたにも関わらず受験まで半年を切っても志望校の合格圏内には入らなかったそうです。Aさんは志望校を変えることも考えましたが、夫が頑として譲らなかったそうです。というのも、夫にはB学園に入りたかったのに入れなかったという苦い過去があり、息子だけは何としても入れたいという強い思いがあったのだとか。 ──息子さんの方は、渋々中学受験に臨んでいたのでしょうか? おそらくそうでしょう。Aさん夫妻は、危機感も意欲もまったく見せない息子を毎日のように叱りつけて勉強させていたそうで、とうとう夫がその態度に怒って殴ってしまったそうです。だからといって息子のやる気スイッチが入ることはなく、それどころか父親への恐怖心から自室に閉じこもるようになったそうです。当然勉強にも身が入らず、模擬試験の度に順位が落ちていきました。その結果、滑り止めに受けた私立中学もすべて落ち、地元の公立中学に入学したそうです。 ──その後、Aさんの息子さんはどうなったのですか? 父親との関係が改善することがないまま激しい反抗期を迎えたそうで、とても手を焼いたそうです。30代になった現在は、アルバイトで生計を立てながら一人住まいをしているそうですが、親子関係は冷え切ったままで、ほとんど実家には寄りつかないのだとか。Aさん夫妻は、小学生の頃に戻って親子関係を作り直したいという後悔に苛まれているそうです。