キリンHD、日本製鉄、神戸製鋼所…国内企業は生物多様性の保全にどうコミットしているのか?
こうした課題に対して、鉄鋼スラグを海岸の汀線に設置することで、波や潮の干満によって鉄鋼スラグ中の鉄分は海中に供給され、生物多様性の増加につながると考えられます。 神戸製鋼所は、兵庫県や沖縄県においてスラグにより海域における環境修復の実証試験を行っています。兵庫県沿岸で行った実証実験では、鉄鋼スラグを組み合わせた鋼製藻場魚礁の沈設後に、藻類の繁茂や魚の回遊といった成果が確認されたことを神戸製鋼所は報告しています(神戸製鋼所HPより)。 日本製鉄は、鉄鋼スラグと廃木材チップを発酵させた腐植物質とを混合することで生成するフルボ酸鉄が、海藻類の成長促進に有用であることに着目し、北海道増毛町において藻場再生の実証事業を行いました。 鉄鋼スラグと腐植物質を混合した施肥ユニットを設置して8か月後の調査では、施肥エリアにおける単位面積当たりのコンブ生育量は、施肥しなかったエリアと比較して100倍以上に及ぶなど、良好な成果が示されたと日本製鉄は述べています(日本製鉄HPより)。 JFEスチールは、鉄鋼スラグを生物着生基盤材などの用途向けに製品化しています。鉄鋼スラグに炭酸ガスを吸収させてできた炭酸固化体は、海藻やサンゴの着生基盤材として使用できると述べています。鉄鋼スラグの水和固化体も同様に、海藻着生基盤材としての用途に加えて、漁礁としての活用により、豊かな海づくりに貢献するものとJFEスチールは位置付けています(JFEスチールHPより)。 これらは、枯渇性資源である鉄を豊富に含んだ副産物を自然に還元、あるいは基盤材として活用することでネイチャーポジティブに貢献している取り組みであり、事業とのシナジーが高い事例であると筆者は考えています。
野村総合研究所