出町柳駅前のジャズ喫茶「LUSH LIFE」 京都の町にたゆたう音楽の記憶(その1)
まだまだ続く名盤ラッシュ
実はShazamでわからなかった曲やアルバムでも、アーティスト名やタイトルがわかればYouTubeで出てくることもある。「なんやこいつスマホで調べとるな!」とマスターにバレないようにメールをするふりをしてこっそり調べたが、やっぱり出てこない。YouTubeでも出てこないような盤を聴いている人はとんでもないマニアである可能性が高く、僕の緊張はさらに高まった。 そして続く盤もたまらない。しっかりとした楽しげなアコースティックアンサンブル。「いわゆるジャズ」ではなく、アメリカのジャグ・バンドによるオールド・タイム・ミュージックで、やっぱりShazamは敗北。再びジャケットを見せてもらうと「the jug bands-back ground of jazz vol.1」という盤で、おじさんは「フーフー♪フー」と楽しそうに一緒にハミングしていた(またもYouTubeにも出てこない)。
さらに次の盤もやっぱりたまらない。たまらずすぐに「これは、なんですか?」と聞いたら、急に奥からいなくなってしまった。あんまり何度も盤を見せてもらったから気を悪くして引っ込んでしまったのか…と不安になっていると、「トイレに行ってるんよ」とカウンターの中で立ち働く女性が言う。この店ではトイレは前の公園のものを利用するのだとか。外には温かい日にはもってこいのテーブルとチェアーがある。帰りが遅いなあと思ったら、用を済ませたマスターはそのテーブルでくつろいでいるのだった。
しばらくしてやっと戻ってきたマスターが、次のレコードに手を伸ばす。1枚1枚、大事そうに選んでかける、昔ながらのスタイルだ。次のアルバムは僕にも分かった。ブルースのミシシッピー・ジョン・ハートの「TODAY!」だった。これは僕が東京で主催しているトーク・イベント「サエキけんぞうのコアトーク」で高田渡さんをテーマにした回に、ゲストのなぎら健壱さんから教わりつつ聴いた、ブルースのルーツ・アーティスト。高田さんは彼の歌をヒントにした多くのレパートリーを歌っていた(時には曲もそのまま使っていた)。ブルースといっても、至福の優しささえも感じる、ふんわりした持ち味が魅力だ。