亡き祖父のアトリエ拠点「楽しさ伝えたい」作品展示や子ども体験会 小沢宙さん、前川加奈さん 福島県三春町
福島県三春町出身の美術作家と人形師が「芸術の町 三春」を目指して動き出した。2人の亡き祖父は芸術の世界で活躍した。空き家となっている祖父の家を改装し、絵画や人形などを常時展示する。美術教室にも活用し、子どもたちなどに芸術を身近に感じてもらう。9日から町文化伝承館で展覧会を開催し、活動を町内外にアピールする。2人は「若い感性で、芸術の楽しさ、素晴らしさを伝えていきたい」と張り切る。 活動しているのは美術作家の前川加奈さん(39)=埼玉県在住=と三春人形師の小沢宙さん(40)=三春町在住=。 前川さんの祖父・前川治朗さんは中高教諭の傍ら作品制作に励み、描いた三春駒や三春人形の絵が切手のデザインに採用された。三春中の校章デザインも考案した。神奈川県で生まれた加奈さんは祖父の影響を受けて美術の道に進み、美術大で非常勤講師を務めるなどしている。 小沢さんの祖父・小沢太郎さんは廃絶していた三春人形の復元に尽力。草木で染める張り子人形が特徴で「小沢民芸」を興し、さまざまな作品を残している。宙さんは京都府で仏師の指導を受けた後、家業を継ぎ同民芸4代目として精力的に作品作りに取り組んでいる。
2人が知り合ったのは町内ゆかりの作家が町内で開催した2019年の企画展。年齢が近く、ともに祖父が美術に関わっていたという似た境遇からすぐに意気投合した。夏休みのたびに祖父の家に滞在していた加奈さんと、当時近くに住んでいた宙さんは「ひょっとしたらあの時、一緒に遊んでいたかも」などと子ども時代の話題で盛り上がった。 「三春町には素晴らしい作家がたくさんいるものの、作家や芸術に気軽に触れる機会が少ない」。2人は共通の思いを抱き、構想を練ってきた。加奈さんは震災後に亡くなった祖父の自宅のアトリエを活用していた。築70年ほどの古い家だが、町中心部にあり、町の芸術振興の場として光を当てることを決めた。活動に賛同する人の輪をどのように広げていくか課題もあるが、今後、協力者を募りながら、数年かけて改装していく考え。 すでに、町内のイラストレーター宮田美穂さんらと一緒に、美術の体験会などを開いている。子どもたちが参加し、夢中になって絵を描いている。加奈さんは「三春町に来れば、何か楽しいこと、面白いことをやっているのを発信できればうれしい」と話す。宙さんは「作家や職人は製作するのが本業となりがちだが、作品や芸術の魅力に触れることができる場になれば」と期待している。
■9日から町内で展覧会 展覧会「ふたつの じいまご 展」は9日から14日まで、町文化伝承館で開かれる。加奈さんの抽象画や治朗さんの水彩画、宙さんや太郎さんの三春人形を展示する。時間は午前10時から午後4時まで。入場無料。問い合わせは同館。