意外と知らない、大阪で起きた「逆ドーナツ化現象」の実態
人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 【写真】日本人は「絶滅」するのか…2030年に百貨店や銀行が消える「未来」 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。
大阪府では「逆ドーナツ化現象」が起きる
全国規模ではないにせよ、コロナ禍で大阪府に人口を集める勢いが出てきたことは事実だ。では大阪府はどこから人が流れ込んだのだろうか? 大阪府の転入超過を分析すると、兵庫県(4445人)、京都府(3458人)、和歌山県(1585人)など通勤圏の隣接県が上位を占めた。コロナ禍で仕事を失い、大阪府内に再就職先を見つけたり、電車通勤の感染リスクを考えて職場に近いところに引っ越したりという人も少なくなかった。 東京都では隣接県へと引っ越すという、ゆるやかなドーナツ化現象が生じ、大阪府は周辺府県から集める逆ドーナツ化現象が起きるというコントラストを描く結果となったことは興味深い。日本生産性本部の「第5回働く人の意識に関する調査」(2021年4月)によれば、テレワークの実施率は1都3県の30・7%に対し、大阪府と兵庫県は18・4%と大きな差があるが、大阪府、兵庫県のほうがテレワークに馴染まない製造業や中小企業が多いためとみられる。 大阪府の転入超過に関して特筆すべきは、愛知県が第4位の人口供給地となったことだ。愛知県から大阪府への転入超過数は1327人で、2・36倍(前年比)の急増である。 2020年の「住民基本台帳人口移動報告」を見ると、コロナ禍で最大の人口流出に見舞われたのが愛知県であった。転出超過数は7296人である。 愛知県といえば三大都市圏の中核であり、2018年までは転入超過県の一角を占めていた。2019年に転出超過が1931人となって社会減少に転じたばかりであった。コロナ禍で一気に悪化した形である。 2020年3月の引っ越しシーズンに転入超過数が伸び悩み、その後も挽回できなかったためだが、愛知県は「コロナ前」の2019年後半から県外流出の傾向が見られた。 愛知県の産業といえば、トヨタ自動車をはじめとする製造業が中心である。米中貿易戦争や消費税率引き上げなどの影響を受けていたところに、コロナ禍が直撃して雇用情勢が一気に悪くなった。 業務の縮小で仕事を失った人たちは愛知県内で転職先を見つけようにも転職市場そのものが小さいため、東京都や大阪府などに仕事を求めて移動したということである。 ちなみに、2020年の転出超過幅が2019年よりも大きくなったのは愛知県(2019年比5365人増)、兵庫県(同827人転出増)と京都府(同1259人転出増)の3府県だけであった。この3府県を除く他の道県は転出超過ではあったものの、転出超過幅は小さくなっている。 コロナ禍による人々の動きへの影響は極めて限定的であり、コロナ前からあった人口の偏在をめぐる課題は続いている。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)