加齢で衰え、住み替え迫られたら…終の住み処選びで「最初に考えてほしい」4つの選択肢
人生の最後まで自宅で暮らしたいと思っても、加齢による衰えが進めば施設などへの住み替えを迫られることは少なくない。頼れる家族が身近にいない高齢の夫婦や1人暮らしにとって、「終(つい)の住(す)み処(か)」は重い課題の一つだろう。多様化・複雑化が進む「高齢期の住まい方」をテーマにしたセミナーが20日、福岡市・天神で開かれた。 【画像】山中代表が作成した主な高齢者向け施設の分類図 セミナーは福岡市が主催し、高齢者を中心に市民約100人が参加。20年以上にわたり国内外で高齢者施設を視察、講座や著述を通して高齢者の住まいや介護に関する情報を発信している、エイジング・デザイン研究所(和歌山県)の山中由美代表が講師を務めた。 高齢者施設などに住み替えを検討する場合、「最初に考えてほしい」と山中代表が強調するのは、「自立して元気なままの状態で住み替えるのか、要介護になったら入るのか。自立型施設にするか、介護型施設にするかを選ぶこと」。 自立型には、入居一時金は高額だが、マンション並みの居室で要介護になっても安心の有料老人ホームだけでなく、ほかの施設もある。介護型の選択肢も複数ある。仮に後者を選ぶ場合でも、「準備は早めに始めてほしい」と山中代表は語る。「高齢での住み替えは大変。元気なうちに介護施設の情報を集め、見学に行って目を付けておくことが大切です」 ■ □ ■ 多種多様な施設の特徴を把握することも肝要だ。 「日本の高齢者向け施設の種類は複雑怪奇」。山中代表が作成した分類図に沿って、主要な施設に絞った説明が続く。 まず、介護保険法に基づく介護保険3施設で、「終の住み処」となり得るのが特別養護老人ホーム(特養)。「今は要介護3からしか入居ができない(特例入居を除く)。30万人近い待機者がいるほど人気があって、希望してもなかなか入れないのが現状」 老人保健施設(老健)は病院と自宅の中間的施設で「脳血管疾患や骨折で入院した人が、リハビリをして在宅復帰を目指す。終の住み処ではなく、一時的な住み込みのリハビリ施設」。 介護医療院は「胃ろうによる栄養補給やカテーテルによる排せつなど、長期的な医療措置が必要な人が対象。医療法人や病院が運営している施設が多い」。 山中さんが「福祉系施設」と分類するのは主に三つ。ケアハウス(一般型)の入居対象は「身の回りのことが自分でできる人」で、食事など生活支援サービスが受けられ、入居後に要介護になると外部の訪問介護サービスを利用することなる。ただし「要介護3になると退所を求められるケースが多い」という。数は少ないが介護付き(特定施設)のケアハウスもある。 グループホームは認知症の診断を受けた要支援2以上の人が対象。小規模な施設で共同生活を送りながら、介護を受ける。 有料老人ホームは「介護付」と「住宅型」がある。「介護付は生活支援・介護サービスをすべて施設が提供。住宅型では介護サービスは外部の事業所が提供する。多くの場合、敷地内や近所に訪問介護事業所などがあり、そこからスタッフが派遣される」 介護保険施設と福祉系のほかに住宅系施設がある。高齢者が暮らしやすい住宅の提供が主な役割だ。「日本は介護保険施設や福祉系が中心ですが、高齢者福祉の先進地である北欧では住宅系が主流です」 中心はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)。バリアフリーなどが整備された高齢者向け賃貸住宅だ。「付いているサービスは、安否確認と生活相談。生活支援や介護のサービスは別契約です」 ■ □ ■ 「施設の実態はさまざまで、個々の施設の情報を入手して、見学しないと分からないことがたくさんある」と語る山中代表は「早め早め」「元気なうち」の準備を繰り返し呼びかけた。 聴講した福岡市市内の70代女性は「1人暮らしなので、いずれは施設と考えていました。先送りしてきたけど、終の住み処選びは大変だと実感しました。施設の資料集めから始めます」と話していた。 (特別編集委員・岩田直仁)