『宙わたる教室』は“人と繋がれる場所”の尊さを描く 孤独だった伊東蒼が3人目の部員に
『宙わたる教室』(NHK総合)第3話のサブタイトルは「オポチュニティの轍」。オポチュニティとは、NASA(米国航空宇宙局)が火星に生命を育む環境が存在していたかどうかを知るために開発した火星探査車のことだ。2004年に火星に上陸し、想定されていた3カ月の運用期間を遥かに超えて旅を続けた。 【写真】“火星の夕焼け”を再現した青い光を見つめる伊東蒼 数々の困難を乗り越え、2019年にミッションを終了するまでの15年間に撮った写真はなんと21万7000枚以上。その中にはオポチュニティが一人来た道を振り返って撮影した写真がある。 見渡す限り、誰もいない大地にくっきりと刻まれた二本の轍。そんなオポチュニティの孤独な道のりに想いを馳せるのが、佳純(伊東蒼)だ。彼女は自律神経の乱れによって、立ち上がったときに頭痛やめまいを起こす起立性調節障害を発症。午前中の活動が難しいため、東新宿高校定時制に編入してきたが、保健室登校を続けていた。 その佳純が保健室の来室ノートに綴った暗号のような文字について養護教諭の佐久間(木村文乃)から相談を受けた藤竹(窪田正孝)。それはアンディ・ウィアーの小説『火星の人』で火星に取り残された宇宙飛行士のマークが綴るログ(日誌)を模写したものだった。“ハブ”は居住施設、“EVA”は船外活動のこと。今の佳純が学校で息ができるのは保健室というハブの中だけで、教室に行くということは重たい宇宙服を着て火星の過酷な環境に出て行くようなものなのだ。 だけど、その大変さを誰も本当の意味では理解してくれない。同じような孤独を抱えるオポチュニティやマークに佳純は共鳴する部分があるのだろう。他方で、彼らのようにいつかは船外へ足を踏み出したいという気概はつねに持ち続けていた。そのきっかけになればと藤竹は岳人(小林虎之介)やアンジェラ(ガウ)と放課後に実験している物理準備室に佳純を誘い、彼女は勇気を持って入り口まで轍を伸ばす。 そんな佳純をハブに留めようとするのが、同じ保健室登校の真耶(菊地姫奈)だ。劣悪な家庭環境で育ち、リストカットやODを繰り返す彼女にとって、腕に同じ傷を持つ佳純は火星でようやく見つけた仲間みたいな存在だったのかもしれない。けれど、同じようでいて、腕に刻まれた傷の意味は佳純と真耶とで大きく違っていた。 真耶は誰かに構ってほしいという気持ちが強く、そのためなら自分や他人を傷つけることも厭わない。そんな彼女に対する「他人を危険に晒すなら、あなたの居場所はもうここにはない」という佐久間の言葉はきつく聞こえるかもしれないが、ここで優しく寄り添っていたら堂々巡りで本人も危険に晒すし、本当に助けを求めている人を見過ごしてしまう可能性もある。だから佐久間があえて突き放した真耶を佳純は追いかけるが、彼女は別の仲間のところにいた。真耶は構ってくれるなら誰でもよかったのだ。