筑後地区の最高級ゴザ「掛川」、80歳の技術保持者が地元社員らを「弟子」に…「早く一人前にしたい」
福岡県・筑後地区に伝わる県指定無形文化財「掛川」の手織り技術を消滅させまいと、技術保持者の一人、深野キヌ子さん(80)が、継承に力を入れている。昨年9月から、インテリアメーカーの社員ら10人を“弟子”に取る深野さんは「地域で守ってきた技術を次世代に残すため、少しでも早く一人前にしたい」と意気込んでいる。(鶴田明子) 【写真】深野さんが手織りした掛川
「手が反対ばい」「こことここば(ここを)、きれいに合わせて」
9月4日、深野さんは同県大木町の作業場に集まった弟子たちに、注意点を指導した。毎週水曜日の研修会には、同地区の6事業者に勤める男女10人が参加。原料となるヘラの皮の下準備から、織機でい草を織り込んでいく作業までを段階的に学ぶ。
インテリアメーカー社員で大阪府出身の木林由依さん(30)は、最年少。深野さんから「一番初めが一番大事」と促され、ヘラの皮をひたすら薄く剥ぐ作業を繰り返す。「県外から来た私を温かく受け入れ、直々に教えてくれる。とても貴重な体験」と笑顔を見せた。
1996年に県い製品商工業協同組合(大木町)が発行した「福岡県の藺業誌」によると、掛川は江戸時代、筑後地区で、農家の女性の副業として始まったとされる。58年に県無形文化財として指定され、8人の技術保持者が登録された。
自動織機の普及で手織りが廃れると、技術保持者も減少。昨年9月時点で、技術保持者は96年に登録された深野さんを含め3人。高齢化などで、現在指導できるのは深野さんのみという。
深野さんの母親も技術保持者で、7人の子育てをしながら、掛川づくりに励んだ。59年の上皇ご夫妻のご成婚時に、手がけた掛川の敷物1枚が献上された。
農家に嫁いだ深野さんは30歳頃、母親から「継いでくれんね」と頼まれた。生活のため、母が休む間もなく手織りする姿を思い出し、「母の思いを引き継ぎたい」と修業を開始。見よう見まねで習得し、78年頃に独立すると、農作業の傍ら、仏間用の敷物などを制作してきた。