深圳の児童刺殺事件から考える中国全土にうっすらと蔓延する反日感情の正体 「透けて見える政府側の意図」
「中国のネット空間は、政府の徹底した管理下に置かれています。中国政府を批判する内容を発信すればすぐに削除されて処罰されかねないのに、日本を攻撃するデマはまったく取り締まられない。世論を誘導しようとする政府側の意図が透けて見える気がしました」 ■“死亡卒業写真”がはやる中国 反日感情の高まりは、中国社会への絶望感の裏返しという側面もあるのだろうか。21年に不動産大手の恒大集団が経営危機に陥ると、中国国内の景気低迷が浮き彫りになった。西谷氏は昨年中国を訪れた際、現地の人々から、 「景気は明らかに悪い。若者たちは仕事が見つからない」 「給料は変わらないのに物価だけ上がる」 といった嘆きの声があがるのを何度も耳にしたという。 「『卒業即失業』という言葉が生まれ、SNSでは大学を出たばかりの人がカメラの前で“死んだふり”をする『死亡卒業写真』がはやる。今の中国では、バブル崩壊がゆるやかに始まっていると感じます。生活は苦しくなるのに、政府に文句を言うことは許されない。そうなると、いくら叩いてもとがめられない日本が、鬱憤(うっぷん)のはけ口として格好のターゲットになるのでしょう」 加えて、今回の事件が起きた深圳市は、通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の本社があり、周辺の農村部から出稼ぎ労働者が多く集まる都市だ。家族と離れて孤立したり困窮したり、「土地柄的には社会への不満を募らせる人が一定数いてもおかしくない」と西谷氏は指摘する。
■蘇州の事件を忘れていた日本人 6月には、江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた母子が襲われる事件が起きたばかりだ。中国政府は、蘇州の事件も今回の事件も、容疑者の犯行動機を「調査中」としていまだ発表していないが、西谷氏は「世論が沈静化するのを待ってうやむやにされるのでは?」と危惧している。 「“たられば”の話ですが、蘇州の事件を受けて、中国政府が『過剰な愛国心によって他の国の人を憎んではいけない』といったメッセージを発していたら、今回の事件を防げたかもしれない。日本人の99%は今の今まで蘇州の事件のことは忘れていたと思いますが、日本政府と世論が中国に対し、徹底して真相究明を求めないと、第3、第4の事件が起きかねません」 10歳の男の子の命が奪われたのは、中国政府が言うような「個別の偶発的事件」だったのか。これ以上悲劇が繰り返されることは、あってはならない。 (AERA dot.編集部・大谷百合絵)
大谷百合絵