日本ファルコム近藤代表が『軌跡』シリーズの展望を語る。「新作『界の軌跡』で物語の9割が語られる」。さらに“『軌跡』入門編”となる新作RPGの構想も披露【台北ゲームショウ2024】
文・取材:馬波レイ 2024年1月25日~28日まで台湾で開催された台北ゲームショウ2024。日本のメーカーやクリエイターが多数訪台をしている中、開催3日目となる27日には、日本ファルコム代表の近藤季洋氏が登場。“Falcom X CLE 2024 Taipei Game Show スペシャルステージイベント”と銘打たれたステージにて、『イースX -ノーディクス-』や『英雄伝説 黎の軌跡』の最新情報を明らかにしていった。 【記事の画像(7枚)】を見る ここでは、それらの発表を受けた上での近藤氏へのインタビューをお届けする(台湾メディアと合同で実施)。『軌跡』シリーズ最新作となる『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』(2024年発売予定)についてのアレコレ、さらにはまだ見ぬ『軌跡』シリーズの入門編についての言及もあった発言に注目してほしい。 『界の軌跡』が終わると、『軌跡』シリーズの9割くらいが描かれる ――『界の軌跡』の位置づけについて教えてください。『創の軌跡』のようなタイトルなのか、『黎の軌跡II』の続きのようなタイトルなのか。 近藤 『創の軌跡II』、『黎の軌跡III』っぽいところもあるのですが、そう名付けなかったのは理由があります。 共和国を舞台とするというところでは、『黎の軌跡』の延長上にありますが、どちらかと言うと、『軌跡』シリーズ全体としてのクライマックスが始まっていくよ、という意味でのタイトル名になります。 いま発表している画像で、懐かしいキャラクターたちが登場してきていることから『創の軌跡』を想像されていると思うのですが、じつはそうではなく“クライマックスに向かって、いままで登場したキャラクターたちが集結していく”という流れになります。 これからまったくの新キャラクターも出てくる予定ですし、いままでに出てはきたけれどきちんと描かれていなかった人物もしっかりと描かれたり、そういったところに期待していただければと思います。 ――『界の軌跡』の世界でのテクノロジーはどれほど進化していますか? 公開されたゲーム画像を見ると宇宙にまで進出しているようですが。 近藤 あくまで共和国の水面下でのテクノロジー進化です。また、それ以外にも高度なテクノロジーを持つ組織が出てきます。そういったところがきっかけとなって物語を動かしていきます。 ――『界の軌跡』の舞台は、『黎の軌跡』のようにあちこちに行くのか、これまでの『軌跡』シリーズのように特定の場所で展開するのでしょうか。 近藤 『界の軌跡』ではヴァンも登場するのですが、それ以外のキャラクターたちもスポット的に登場して群像劇のような表現になります。その点では『創の軌跡』に似ているところもあります。 登場人物の視点は変わりますが、基本的には共和国がメインとなり、そこにいろいろな勢力が集結してきます。ですので、ステージイベントで名前を上げた地名は注目しておいてほしいです。 ――公開された画像にはルーファスのような方がいますが、登場しますか? 近藤 いまお見せしている人物たちは、間違いなく登場してきます。本作では『黎の軌跡』以上にさまざまな勢力が入り乱れて物語が進んでいきます。今回お見せしているのはほんの一部なので、今後の発表にご期待いただければと思います。 ――『界の軌跡』のキャラクターイラストは引き続きエナミカツミ氏が担当されるのでしょうか? 近藤 はい。そうなります。 ――『界の軌跡』が終わると『軌跡』シリーズ全体の何割くらいが描かれるのでしょうか。また、共和国編の完結編となるのでしょうか? 近藤 以前『黎の軌跡II』のときに全体の7割強と話した記憶があります。今回の『界の軌跡』が終わると9割くらい……かなあ。 目標値であって実際に終わってみないとわからないのですが、それだけゼムリア大陸の謎に関しては『界の軌跡』で多く語られることになると思いますし、共和国の話はそこで一回締めようとは思っています。 台湾のファンから得られる熱意。そして『軌跡』シリーズの入門編となるタイトルが!? ――『イースX』のアクションや操作は『イースVIII』とはかなり異なっています。今回Steam版に移植されたことで操作のカスタマイズができるようになるのでしょうか? 近藤 発売直後は日本のユーザーさんも新しい操作に苦労していて「難しい」という声も聞きました。ただ、クリアーするころになると操作に慣れて、『イースX』ならではのアクションのおもしろさに同意してもらったのではないかと思っています。 陳※ 補足するとSteam版での操作カスタマイズは可能です。Steam Deckへの対応としては、16:10の画面比率への対応のほか、一部UI(ユーザーインターフェイス)をSteam Deck向けに調整しています。ほかにも細かい部分での調整はあります。 ※陳氏はクラウディッドレパードエンタテインメントの代表。当日は通訳も担当。 ――Steam版『イースX』は日本での発売予定はありますでしょうか? 陳 いまのところコメントはできません。 近藤 もともと僕らはPCゲーム会社のはずなんですけどね(苦笑)。 ――日本ファルコムがアジアに本格進出して10周年となりますが、それについての感想をお聞かせください。 近藤 僕ら日本ファルコムって、社員の9割ぐらいが開発スタッフなんですね。どちらかと言うと、作ることに夢中になってしまう会社で、(開発したゲームを)売ることが後回しになってしまう。そして、完成させると満足してしまうところがあります。日本国内で売っていればいいというのが、10年前だったんですね。 20年ほど前からPCパッケージ版を中国や台湾で販売したりはしていたのですけれど、実際に現地を訪れたことはありませんでした。それが10年前に台湾を訪れたら、僕らが思っている以上に遊んでいただいていて、「世界で遊んでもらっているんだ」と認識が大きく変わりました。この10年で自分たちは本当に変わったなと思います。具体的には、3年前は新入社員の半分以上が中国の方でした。 これから先、日本ファルコムがその10年前の状況にまた戻るということはもう考えにくいですね、今後はますますアジアを含めたユーザーのいらっしゃるところに向けてコンテンツを作っていくんだよ、という視点で、制作のほうに取り組んでいきたいなと思っています。 『黎の軌跡』や『界の軌跡』というのは、ゼムリア大陸の中でも アジアの雰囲気が感じられる地域を描いていくことになるので、本当にいいタイミングなのではないかなと考えています。期待してもらえればと思います。 ――今回の台北ゲームショウを訪問しての感想がありましたら。 近藤 アジアに展開していくきっかけになったのが台北ゲームショウですから、格別な想いがあります。ここ数年は海外に行きにくい状況でしたが、頭にあったのは「つぎはいつ台北に行けるだろうか」という想いでした。今回7年ぶりに台湾を訪れて、現地の販売店にも行きましたが、やはり感じたのはユーザーの方たちの情熱です。そのエネルギーを感じることができて「明日からまたがんばってゲームを作ろう」という気持ちにさせてもらえます。 陳 10年前は本当に大変でしたよね。同時発売しようといい出したのは私ですけれど。 近藤 『閃の軌跡II』はPS3版とPS Vita版を同時開発という、日本ファルコムで初めての試みをやっていました。そこに当時SCE台湾に在籍されていた陳さんから「アジア版も同時発売をしましょう」という話があって。同時並行での作業はすごくきびしくて、創業者から「無理しなくていいんだぞ」と言われたくらいでした。 それまでの日本ファルコムは開発作業をすべて社内で行っていたのですが、あのとき始めてグラフィックを外部にアウトソーシングしたんです。そういった判断もあったり、台湾でのイベントもあったりと初めて尽くしだったので、日本ファルコムの歴史に楔を打ち込んだ出来事であったと思います。 ――『軌跡』シリーズはかなり大きな物語となっていますが、新しいユーザーが遊ぶにあたってどのタイトルから遊んだらいいでしょうか? 近藤 『軌跡』シリーズは現在13タイトルがあるので、最初から遊ぶのは難しいとは思います。ですので、気になったタイトルから手に取っていただければと思っています。当然過去作からのキャラクターが登場してくるのですが、そこも気になったところを紐解いていっていただくのがよいのかなと。 とは言え、20年続くシリーズですから「これから始めるのがオススメです」というタイトルを、さらに言うならRPGのエントリーモデル的なタイトルを制作できないかと考えているところです。この新作に関しては、『軌跡』シリーズ20周年のうちに発表できればと準備を進めているところです。 ――そのエントリーモデルについてもう少し詳しくお聞かせください。また、過去のタイトルをリメイクする予定はありますでしょうか? 近藤 現状で具体的に言えることはないですが、皆さんが期待されていることをやりたいなと、いつも僕は考えています。 ――『黎の軌跡』では発売後に大型アップデートがありましたが、『界の軌跡』では大型アップデートはありそうでしょうか? 近藤 できれば避けてほしいと思っています。日本ファルコムって、もともとはPCゲームを作っていて“パッチ”で修正するというのは身近な概念だったんです。でもその当時は「パッチを出すということは完成していないモノを出したということだ」と、作ってもそれを公開させてもらえなかったんですね。 最初の1.00バージョンで完成したものをお見せするのがベストだとは思っているのですが、『軌跡』シリーズは制作者の情熱がすごくてですね、「入り切らない」とか「やっぱりこれをやりたかった」というものが発売後に出てきてしまう。そうしたものは大型アップデートという形でやらせていただいています。 ――アジア版がリリースされるタイトルに中国語ボイスオーバーは追加されるでしょうか? 近藤 それについてはクラウディッドレパードエンタテインメントさん次第です。日本ファルコムの基本姿勢としては、各地域のパブリッシャーさんにお任せすることにしています。国や地域によって声優さんのイメージやポジションは違っていますし、僕らにはそうした知識がないものですから。 たとえば、北米では少し前までは吹き替えたほうが好まれましたし、逆にアジア圏では日本の声優さんの声を聞きたいという声もたくさんいただきます。その上でどうするかは、各パブリッシャーさんたちの意見を尊重しています。
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