『ブギウギ』で“パンパンガール”を描く意味とは? 当時の日本を象徴するスズ子とおミネ
「東京ブギウギ」が大ヒットし、世間から“流行歌手”として広く知られるようになったスズ子(趣里)と、“ラクチョウのおミネ”と呼ばれ、有楽町界隈のパンパンガールたち仕切るおミネ(田中麗奈)の交流が描かれているNHK連続テレビ小説『ブギウギ』第20週。今週は2人のピリピリした雰囲気にちょっとだけ居心地が悪い毎日となっている。 【写真】スズ子(趣里)のステージに駆けつけた達彦(蒼昴)とタイ子(藤間爽子) 「パンパンガール」とは、戦後混乱期に街頭で待機したり街路を歩き回ったりしながら、主として在日米軍将兵を相手に売春を行った女性たちのこと。「パンパン」「夜の女」などとも呼ばれていた。本作ではスズ子が活動の場にしていた日劇がある有楽町が舞台となっているが、上野や新宿でも多くのパンパンガールたちがいたとされている。有楽町を指す隠語がラクチョウであり、上野と新宿はそれぞれノガミ、ジュクと呼ばれていたという。 「東京ブギウギ」が発売された1947年、田村泰次郎の小説『肉体の門』も発売され、戦後日本最初のベストセラーとなった。この本はパンパンガールを主人公とし、彼女たちが必死に生き抜いていく姿が描かれていた。このことから、スズ子とおミネはまさに当時の日本を象徴する女性2人であったといえる。 スズ子のいる世界は華やかなショーの世界。自身もスターの1人であり、りつ子(菊地凛子)のような売れっ子たちとも親しくしていたスズ子には、きっとドラマにしてもおもしろくなるような出来事がたくさん起こっていただろう。だが『ブギウギ』は一貫してスズ子の生活やスズ子に関わる市井の人たちも丁寧に描いてきた。たとえば、スズ子が育ったはな湯に集っていた人たち、初めての東京生活をサポートしてくれた吾郎(隈本晃俊)とチズ(ふせえり)夫婦や伝蔵(坂田聡)、出産の手助けをしてくれた村西医院の村西医師(中川浩三)や看護師の東(友近)など。これまで登場してきた市井の人たちはスズ子を応援してくれ、その応援を力に変えて、スズ子は人としてもスターとしてもどんどん大きくなっていった。おミネたちのようなパンパンガールもその時代の“市井の人”と考えると、スズ子がそのような人たちと対立するような状態は、本作で初めて描かれているといえるのではないだろうか。 こうなってしまったのは、スズ子の周りに記者・鮫島(みのすけ)のような悪意を持った人たちも増えたことが関係している。それだけスズ子が国民的なスターとなったということなのだが、それは同時にスズ子の人となりが誤解されやすくなってしまったということも意味している。すでに大人気のスズ子は「穿った見方をしたい人はすればいい」と自分を批判する人を突っぱねても困らなかったはずだ。しかしそうはせず、今の状況を打開しようとおミネの元に押しかけるように訪れて、自分の身の上をきちんと話し、誤解を解こうとするスズ子。その姿に「自分の歌でより多くの人に笑顔になってもらいたい。そのために歌っているのだから」という強い信念を感じた。 スズ子はスターである前に、夜泣きで寝不足になりながら娘の愛子を育てるシングルマザーであり、歌を歌うことで生計を立てている女であるという「生活者」としての視点をずっと失わないできたように思う。だからこそ、パンパンガールたちのように影で生活する者に気が付き、その苦労を理解し、寄り添おうとすることができるのだ。 壊れた建物が立派になるだけが復興ではないように、一部の人に疎まれてしまう曲は“復興ソング”とは言えない。きっと私たちは今、全ての人の心に「東京ブギウギ」が染み渡るまでの様子を、ひいてはこの曲が真の復興ソングとなるところを観ているのではないだろうか。
久保田ひかる