「社員が訴えられた」とき会社はどうするべきか、「懲戒権の行使」がトラブルを招くこともある
社員の不正や犯罪が発覚したとき、会社としては再発防止のための取組みを行ない、当該社員に懲戒処分等を科すことになります。しかし、当該従業員が有罪判決を受けており、その懲戒処分が就業規則に定められていたものだったとしても、常にその懲戒処分が有効になるとは限らず、逆に会社が訴えられる可能性すらあります。 そうした際に、会社がとるべき対応と備えについて、『企業実務』の記事を再構成し、弁護士の岡芹健夫さんが解説します。 【図表】非違行為の種類によって分かれる裁判例
■社員の不正行為と会社の責任 人事・労務に限らず、会社のコンプライアンスの実務においては、社員による違法・不正行為の発生に遭遇することは少なくありません。 そのような場合に、法務全般として会社が検討・対応すべき事項を整理すると、以下のとおりとなります。 (1)対外責任 社員が違法・不正行為を行なった場合、その行為によって社外の第三者に損害を及ぼす場合があります。たとえば、飲酒運転によって通行人を死傷に至らしめたような場合です。
その場合、会社は当該行為について、社員が業務の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(民法715条1項)こととなります。いわゆる「使用者責任」です。これは、直接に損害を被った者(被害者)への損害賠償責任であり、私法上の責任です。 そのほかにも社員の違法・不正行為のなかには、たとえば、一定の労働災害や事故について労働基準監督署長への報告義務(労働安全衛生規則96条、97条)を怠るといったように、直接には被害者が生じないものもあります。
このような報告義務違反の場合、被害者への損害賠償義務は生じませんが、会社に対して罰金刑が科されることがあり(労働安全衛生法120条、122条)、いわば公法上の責任を会社は負うことになります。なお、こうした事案でも、会社が労災にあった労働者に対して、「安全配慮義務違反(労働契約法5条)」による損害賠償義務を負うことはありますが、これは、上記の報告義務を履行していても生じる責任です。 以上は、社員の違法・不正行為に関する会社の法的責任の例ですが、会社は、法的責任のほかにも、社会的責任や事実上の責任を負うことも少なくありません。従前より、メディアにより会社の不祥事が報道されるリスクはありました。昨今のネットによる情報発信の隆盛により、社員の違法行為・不正行為に関しては、あることないことない交ぜな内容で社会に広く発信されるリスクが拡大しています。