すこし、遠回りをしていくから vol.1 - ぬるい風 -〈勝呂亮伍〉
すこし、遠回りをしていくから vol.1 - ぬるい風 -〈勝呂亮伍〉
写真は手紙と似ている。 いつかの何かでそんなようなことを書いた。 届くか分からないけれど、届けているつもりで撮っているということ。 届かなくても、その人が健やかでいてくれたら何よりだということ。 変わらないつもりでいたけれど、いつしか誰かを想って写真を撮ることが減ったように思う。 思えば、昨年から仕事関係や友人関係など、暮らしの柱にしていた、いくつかの事柄が変化して、知らぬ間に「他者の生活を想う」という些細な、それでいて大切な物事を考える隙間を失っていた。生活に余白がなくなり、自分のことだけで手一杯になってしまう。そうすると、豊かになるために生きているのに、少しずつ、それでいて確実に、自分のなかの何かがすり減っていってしまう。 だから、優しさを取り戻すまで、ひとり暮らしの家と実家を半々に生活をすることにした。 実家に半分戻り、駅までの道をすこし遠回りして歩く。ゆっくりと流れて行く時間と景色の気丈さに自然と目が奪われる。 ここにはなにもない。 それが今の自分にとって、とても大切だということに、8月のぬるい風で思い出す。 写真家 勝呂亮伍 1994年、神奈川県横浜市 生まれ。明治学院大学文学部芸術学科 卒業。第55回キヤノンフォトコンテスト アンダー30 ゴールド賞 受賞。 Instagram:@ryogo_suguro X:@ryogo__suguro。 勝呂亮伍
HATSUDO編集部