シリアでのIS掃討作戦に懸念 米支援組織に親トルコ勢力が攻勢
内戦下のシリアで米国が続けてきた過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦に懸念が生じている。アサド政権の崩壊を巡る混乱の中、米国の支援を受けて作戦に従事してきた少数派クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が、クルド系を敵視するトルコの支援を受ける勢力から攻勢をかけられているためだ。 【写真で見る】物が散乱したままになっているアサド大統領の邸宅 「我々の地域への攻撃をやめさせるため、米国が十分な政治的圧力をかけてくれることを望んでいる。現状は十分ではない」。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は13日、SDF幹部の窮状を訴える声を報じた。 米中央軍によると、シリアとイラクにはISの戦闘員約2500人がいる。SDFは、トルコとの国境地帯を含むシリア北東部を実効支配し、IS戦闘員らの収容施設の管理も行っている。米軍はIS掃討を目的に約900人をシリアに駐留させ、SDFとの連携を続けてきた。 一方、トルコのエルドアン政権はSDFについて、テロを繰り返してきたトルコ国内の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)とつながりがあるグループだとして敵視する。米国のSDFへの支援にも反対している。 トルコが支援するシリアの反体制派組織「シリア国民軍」(SNA)はトルコ国境沿いのシリア北部を支配。アサド政権の崩壊に伴い、SDFの支配地域に攻勢をかけている。 SDF幹部がWSJに語ったところによると、SDFは攻勢を受けたことでIS掃討作戦を中止せざるを得なくなった。また、IS戦闘員の収容者の一部はより安定した場所へ移しているという。 こうした中、ブリンケン米国務長官は12日、訪問先のトルコでエルドアン大統領らと会談した。米国務省によると、ブリンケン氏は会談に先立ち「トルコはPKKとテロに関して現実的な関心を持っている」とトルコの立場に配慮を示した上で、「ISが再び台頭しないようにしなければならない。そのためには我々が支援してきたSDFは不可欠だ」と強調した。 シリアの隣国イラクでは、米軍はイラク側の要請を受ける形で、IS掃討目的で駐留する2500人を2026年9月までに大幅に削減する。25年1月に就任するトランプ次期大統領は今月7日に「シリアに関与してはならない」と明言しており、今後の中東での米軍の在り方は不透明だ。 AFP通信は、トルコの専門家の話として「エルドアン氏はトランプ氏に対して『この地域を私に渡してくれれば、私がISを壊滅させる』と伝える可能性がある」との見方を報じた。【ワシントン松井聡】