教育DXの焦点-- 依然として国の役割が大きい教育データの利活用
「データの相関を明らかにすることで、これまで経験や感覚に頼っていた(教育)施策の方向性に正当性や妥当性を持たせることができるようになった」。文部科学省が三重県松阪市など3自治体で実施した教育データ利活用の調査研究では、こうした声が聞かれたという。GIGAスクール構想による1人1台端末で実現可能になった教育データの利活用は、先行する自治体で少しずつ成果が出始めている。 公立学校情報化ランキング――小中高等学校の上位自治体 文部科学省は2024年4月、3期目となる「教育データの利活用に関する有識者会議」(以下、有識者会議)をスタートさせた。国が有識者会議に検討を求めているのは、図の通り5つある。このうち、(3)の「必要となる機能やサービスの現状・課題を確認しつつ、自治体等が整備することが望ましいシステム構成や必要な機能等を整理」において、どのような結論が出るのか注目される。 教育ダッシュボードのような基本的な分析・可視化の手法は自治体を問わず共通する部分が多いので、1つの基本モデルを横展開する方が、個別開発するよりもはるかに効率が良い。データの分析・可視化のプラットフォームに必要な機能を明らかにし、研究やシステム開発の負担を軽減しなければ、シンプルな教育ダッシュボードですら全国には広がらないだろう。
学習ログ活用や校務負担軽減に取り組むデジタル庁
教育データの利活用については、文部科学省だけでなく、教育を準公共分野と位置付けるデジタル庁も、校務のデジタル化やデータ利活用の領域で実証研究を続けている。例えば、鹿児島市で2023年度から継続している実証事業では、学習ログ(履歴)を分析して自由進度学習の実践に役立てている。 国際技術標準のOneRoster(名簿情報)やLTI(学習ツール連携)を活用した校務等のデジタル化によって、教職員の負担軽減につなげる研究にも取り組む。さらに、高校入試のデジタル化に向けた技術仕様の検討、デジタル教育サービスをデータベース化して情報提供するWebサイトの構築なども進めている。 2024年6月6日~8日に東京、14日~15日に大阪で開かれる「New Education Expo 2024」では、教育データの利活用に関わるセミナーが多数予定されている。例えば、6月8日(東京)と15日(大阪)の「教育データ利活用の今とこれから~相互運用で実現する教育DX~」には、文部科学省教育DX推進室長の藤原志保氏、デジタル庁 企画官で教育班リーダーの久芳全晴氏、国際技術標準の普及活動などに取り組む日本1EdTech協会の理事で放送大学 教授の山田恒夫氏らキーパーソンが登壇する。 このほか、「教育データ活用で何がどう変わるのか~経験者が語るデータ活用の留意点~」や「これならできる学習ログ活用・実践事例~各種研究を通じたエビデンス駆動型教育~」などのセミナーにも注目だ。
文:江口 悦弘=日経パソコン