『カップラーメン』日清食品社長は「3代目は会社をつぶす」を覆し、快進撃を続ける 祖父・百福氏から受け継ぐ「開拓者魂」とは!?
祖父と父の経営めぐる議論を間近に見聞き 37歳で社長に
―――仕事場でも百福さんとご一緒だったのですか? 朝起きてから夜寝るまでずっと一緒でした。仕事から戻ってきて一緒に夕飯を食べて、時には一緒にお風呂にも入って、寝室まで連れて行く。「もう寝て下さい」と言ってベッドに入ってもらっても、祖父はずっとしゃべり続けるんです。3年間、間近で事業に対する思いを聞かせてもらえたことは、大きな財産になっていると思います。祖父と父が経営方針について役員会で議論しているシーンを見ることができたのも貴重な経験です。 ―――間近で意見を戦わせる姿を見ていたのですか? ある意味、非常に健全なことだと思うのですが、祖父は祖父の、父は父の価値観や経営の思想で意見をぶつけ合っていました。2人の議論を間近で見ていると「お前はどっちなんだ」などと突然振られることもありました。役員会だけでなく、お正月やお盆などで家族が集まると、朝から晩まで経営についての議論が続くんです。当時は若かったこともあり、「なんでこの人たちこんなに仕事の話ばかりしているんだろう」と思っていたんですが、いま振り返ると非常に重要な議論でしたし、私が今の年齢で参加していたら、おそらく3人で夜中まで議論し続けていたんじゃないかと思います。 ―――37歳で社長になりました。若くしてリーダーになってどう感じていましたか? 大きなプレッシャーを感じていました。社員としてもお手並み拝見というところがあったと思います。「会社は3代目がつぶす」と言われて育ってきましたので、それだけはないようにしようと思っていました。祖父がつくったカップヌードルはとても大きなブランドですが、だからと言ってカップヌードルに頼り切りでは会社の成長が止まってしまう。そんな危機感から、私が社長になった時、2つの企業スローガンを掲げたんです。
「インスタントラーメン一本足では、いつか会社は衰退する」
―――社長になって掲げたスローガンとは? ひとつは、「100年ブランドカンパニーへの挑戦」。これはカップヌードル、チキンラーメン、どん兵衛、U.F.O.などのロングセラーブランドや既存のビジネスモデルをどれだけ世界で大きく展開できるかという挑戦です。もう一つの「Beyond Instant Foods」は、今はない価値の創造を目指す意思表明です。インスタントラーメン一本足では、いつか会社は衰退していくでしょう。ですから、それを超えていくような新しい事業をつくり、新しい食文化を生み出さなければならない。そんなクリエイティブでユニークな企業になりたいと考えて、さまざまな取り組みをスタートさせているところです。 ―――ファミリー企業であることの強みは? 非常に長い視点で物事を考え、戦略を実行できる点が強みだと思います。一般的な企業の場合、社長の在任期間は平均5~6年、中央値だと3年とも言われています。そうすると、短期視点で利益をあげないと評価されない。それに対して10年20年の視点で物事を見ることができるので、長期的な投資もできますし、長期的なビジョンに基づいた経営戦略をとることもできる。これは大きな違いだと思うので、武器として生かしていきたいと普段から意識しています。 ―――ロングセラー商品をずっと輝かせる秘訣は何ですか? チキンラーメンは、誕生から65年間、味がほとんど変わっていません。カップヌードルもそうです。一方で、テレビCMを中心としたブランドコミュニケーションは、時代に合わせて常に変化させる必要があります。CMが印象に残れば、お客さまが店頭に立った時にそのブランドのことを思い出し、商品を手にとってもらうことができる。面白いだけでなく、売上に繋がるCMを作れるかがポイントです。守るべきところは守りながら、変化を恐れずにブランドを進化させていく。これがいまの日清食品のマーケティングの根源と言えます。