<春へ走れ・’21センバツ東播磨>/上 「8強」先輩の背中追い /兵庫
「最後まで野球をするか、受験勉強に集中するか、よく考えろ」 昨年5月、夏の甲子園と兵庫大会の中止が決まった際、東播磨の福村順一監督は、3年生9人に一つの選択を迫った。新型コロナウイルスの影響で全体練習もできない中、選手らはそれまで「甲子園で1勝する」ことを目標に、自主練習に励んでいた。思わぬ問いかけに、9人は黙り込んだ。監督がこう尋ねたのは「目標が消えたのに、最後まで野球をやり切るのはよほどの覚悟が必要」と考えたからだ。3年生たちが1週間後に出した結論は「全員で最後まで野球をやり切る」だった。 甲子園にはつながらない昨夏の県独自大会を前に、監督は「3年全員を出場させることもできるぞ」と再度問うた。「メンバーは能力で選んでほしい」。9人は、異例の夏に普段通り臨むことを願った。福村監督は「僕の考えと同じだった。夏を取り上げられたのは下級生も同じ。一緒に苦しい練習を乗り越えたのに、3年だからと優遇するのは下級生に失礼だ」と言う。 チームの新たな目標は「独自大会8強」になった。 1年の秋からレギュラーとして、近くで3年生の背中を見ていた原正宗主将(2年)は「本気で甲子園を目指していた先輩たちはすごく悔しかったと思う」。休校期間中、近所の3年生と自主練習に励んだ宇郷瑠希選手(同)は「監督が見ていなくても高い意識で練習していた」と振り返る。 独自大会初戦の松陽戦は気負いもあって追う展開になったが、3―2で逆転勝ちした。初戦で弾みがつき、加古川南、津名に対しては「ベンチに一体感があり、慌てずにどっしりとしたプレーが続いた」(福村監督)。最終の明石北戦は、粘りの投手戦となった。両校無得点で迎えた九回2死満塁。原主将のポテンヒットが2者生還を呼び込む決勝打となり、目標の8強にたどり着いた。 試合後、福村監督は「最後まで覚悟を持って野球と向き合った3年生の背中を見習ってほしい」と後輩たちに語りかけた。「先輩たちは限られた時間を無駄にせず、取り組んだからこそ目標を達成できた。僕たちもそんなチームをつくりたい」。原主将は、そう胸中で誓った。 以来、練習中のグラウンドには、素早い動作を促す主将の号令が響く。「早くいこうや!」 ◇ ◇ センバツの21世紀枠で選出され、初めての春に向かって走る、東播磨の軌跡を追った。【後藤奈緒】 〔神戸版〕