“絶対王者”富山一の10連覇阻んだ龍谷富山が史上初の決勝進出!! 創部&就任21年目で夢に近づく元名門校GK指揮官「浮かれることなく準備したい」
[11.4 選手権富山県予選準決勝 富山一高 1-4 龍谷富山高 高岡スポーツコアサッカー・ラグビー場] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 第103回全国高校サッカー選手権富山県予選は4日、高岡市の高岡スポーツコアサッカー・ラグビー場で準決勝を行い、創部21年目の龍谷富山高が史上初の決勝進出を果たした。主将で背番号10のFW横山旺世(3年=富山U-15)が先制ゴールを含むハットトリックの大活躍を果たし、9連覇中の絶対王者・富山一高に4-1の大差で圧勝。悲願のジャイアントキリングで歴史を変えた。 同校を率いるのはかつて名門・習志野高のGKとして高校サッカー生活を送り、J3カターレ富山の前進クラブにあたるアローズ北陸でプレーした経験を持つ濱辺哲監督(45)。2004年の同校サッカー部創設とともに現役生活に区切りをつけて今年で21年目、創部当初は部員が11人にも満たなかったチームを県内最高峰の舞台に導いた。 昨季は史上初めて高円宮杯プリンスリーグ北信越2部に昇格したが、結果は14戦全敗。だが、そんな苦境も飛躍の礎となった。「勝ち星には恵まれなかったけれど、その中でも大量失点しても1点取って帰ってくるとか、最後まで諦めない姿勢は今年に引き継いだものがある。いまの3年生は去年経験を積ませてもらったものがすごく財産になっている。この代だけじゃなく、先輩たち、OBたちの積み重ねが花開いたかなと思います」(濱辺監督)。この日は数多くのOBも観戦に訪れていたが、指揮官は彼らへの感謝を口にした。 “トミイチ”の愛称で親しまれる絶対王者・富山一高撃破は大きな悲願。「女子高から共学になって、サッカーか野球となった時にサッカーを学校から選んでくれた。それからこの日を夢見てきた。でも、もう一つ残っているので浮かれることなく準備したい」。濱辺監督は9日の決勝・富山東高戦を見据える姿勢を強調しつつも、大きな扉を開く1勝に感慨をにじませた。 試合内容でも見る者を驚かせ、胸を打つ80分間を演じていた。3-4-3で幅広く選手を配置する富山一のパワフルな攻撃に対し、ブロックを引いて受けに回るのではなく、4-2-3-1をベースとしたプレッシングで渡り合う戦い方を選択。ひとたびボールを奪えば積極的なカウンター攻撃も展開した。 エンド選択で風下に回っていたこともあり、前評判では一方的な劣勢を想定する声もあったが、守備ではDF宮林渉(3年=STG.FC)を中心に危なげない対応を続け、試合の立ち上がりから何かを起こす可能性を感じさせていた。 そうして迎えた前半9分、ファーストチャンスで先制に成功した。相手GKがボールをピッチに置き、持ち上がりながらロングキックを試みるやいなや、最前線の横山が猛烈なスプリントでプレッシングを敢行。身を挺してロングキックをインターセプトし、左サイド裏にボールを残すと、角度のないところから左足シュートで無人のゴールに流し込んだ。 衝撃的な先制ゴールにスタジアムは大きくざわめいたが、このパターンは試合前から想定していた形だった。「まずはボールを持たせて運んできたところでコースを消すということをやっていた。相手の弱点としてGKのキックが飛ばないというのもあったので、ゴールも取れるかなと思って一発を狙っていた」(横山)。決めた10番がそう話せば、指揮官も「そこはチームとして狙っていたので」と冷静に振り返る“してやったり”のゴールだった。 またその後は目が覚めた富山一が攻撃のスイッチを入れてきた中、龍谷富山はライン間で受けるダブルボランチを徹底的にマーク。また富山一の武器でもあるウイングバックへのダイナミックな展開をことごとく封鎖し、さらにカウンター攻撃に出ていく脅威も示し続けた。 「相手のボランチの子たちにボールを握らせると面白くないなと思っていたのと、サイドチェンジを狙ってくるなというのも今までの試合を見ていて感じていたので、そこは狙いに行こうよと話していた。うちのボランチが運動量豊富に行ってくれた」(濱辺監督)。前半34分にはクリアが相手に当たる形で不運なピンチを招き、FW村上文太(3年=Kurobe FC)のゴールで同点に追いつかれはしたが、上々の40分間を演じてみせた。 また1-1で迎えたハーフタイムも試合の行方を左右するターニングポイントとなった。並のチームであれば、絶対王者へのリスペクトから「最低限の結果になった」という安堵感や、後半の猛攻に備えなければならないプレッシャーも出てきがちなシチュエーション。だが、今季の龍谷富山は「相手に物おじしない」(濱辺監督)チームとあり、主将の「勝ちに行くんだ」というメッセージがチームの方向性を明確にした。 「1-1という状況で前半を終われたけど、『自分たちはこのままでいいのか』と。『このまま試合を進んでいったら間違いなく負けるぞ』って声をかけた。『俺たちがチャレンジャーとしてあっちを倒すという勢いでもっとやっていかないと勝てんと思う』と」(横山)。その果敢な姿勢は富山一の猛攻を抑えるどころか、王者の心を折るようなゴールラッシュにつながった。 後半は富山一のMF高橋大和(3年=スクエア富山)のロングスローやプレースキックで攻め込まれるシーンはあったものの、「そこはチームとして想定していて、準備してきたことは出してくれた。また難しいと思ったのか準備していたことと違う形に変えてもやってくれた」(濱辺監督)と冷静に対処。MF岡島翔空(2年=Desipina FC)の決死のカバーリングなど粘り強く1-1で時間を進めつつ、終盤に試合を突き放した。 後半21分、組織的なプレッシングからDF村西琉斗(2年=STG.FC)がボールを奪うと、細かいパスワークで中央を崩し、MF山田鳳太(2年=Kurobe FC)のスルーパスがペナルティエリア左へ。これに抜け出したFW赤田來央(3年=富山U-15)が中央に折り返し、ニアサイドに走り込んだMF松代大輝(2年=広田FC)が角度のないところから左足で決めた。チームにとってはこれが2本目のシュート。驚異的な決定力で2-1とした。 その後も勝ち越しで勢いに乗り、攻勢を緩めなかった。直後の赤田のシュートこそ初めて枠を外れたが、後半31分に試合を決定づける3点目。相手のクリアミスが相次ぎ、ゴール右斜め前30mのポジションにいた横山のもとにボールがこぼれてくると、ダイレクトで右足一閃。飛び出していたGKの頭上を超えるループシュートを叩き込んだ。 横山はこのプレーで足がつり、いったんピッチ外へ。それでも「キャプテンとして自分が最後まで走って戦わないといけないと思った」とすぐに戻ってきた。すると後半35分、負傷がなかったかのような猛烈なプレッシングで相手の横パスをカットし、そのままペナルティエリア内右に独走。右足シュートでゴール左隅に叩き込み、ハットトリックという形でジャイアントキリングを決定づけた。 追いつかれても動じず、勝ち越しても引かず、ゴールを奪い続けた末の4-1勝利。終盤にはやや足が止まってピンチを作られたが、点差がついている中でもMF小坂力也(3年=Kurobe FC)がゴールカバーに入って鬼気迫るスーパーブロックを見せるなど、最後の最後まで気力を失わなかった。 「頼もしく感じましたね。試合前はビハインドの時間が長くなるかなとか、0-0の時間が長くなるかなという予想もあったので。まさかリードする時間でこんなにハラハラするとは。頼もしかったです」(濱辺監督)。創部21年目での“王者撃破”は、指揮官も「思った以上にチャンスをモノにしてくれたのでありがたかった。こんなに差がつくとは思っていなかった」というまさかの大差で実現した。 「選手層、選手の質でトミイチさんに勝てるものは何もないので、チームで勝とうということだけを考えてやってきた。それだけに選手たちには細かいこともいっぱい言ってきたし、こんなことも言われなきゃいけないのかよということもたくさん言われてきたと思う。よく実践してくれた」(濱辺監督) 指揮官がこれまで尽力してきたのは競技面にも大きく表れる生活指導だ。「たとえば最近の子たちの風潮ではジャージにスニーカーを履いているチームもあるけど、走るぞって言われたらすぐ走れるようなトレーニングシューズを履こうと。そういったところの意識から変えていくよということで、他のチームがおろそかにしている部分こそ、うちはちゃんとやろうねということで積み重ねてきた」。そうした日々の姿勢は指揮官自身が高校時代に学んだものだった。 「私自身も恩師にそういうところを口酸っぱく言われて、サッカーを通じて“人として”のところを学んできた」。濱辺監督が“恩師”と仰ぐのは習志野高時代に指導を受けた本田裕一郎氏。2000年代には流通経済大柏高で一時代を築き、現在は国士舘高で指導者キャリアを続ける名将の存在は、高校サッカー選手権で上を目指す大きなモチベーションになっているという。 「県外遠征でお世話になることはすごく多いですし、70歳でまだ現役でやられていますから。全国大会に行って戦うことが恩返しかなと。今年は国士舘は負けてしまいましたが、全国には教え子の指導者がたくさんいるので、(そのためにも決勝で)もう一つ勝ちに行きたいと思います」(濱辺監督) 9日の決勝戦の相手は今季の富山県1部リーグ王者の富山北部高を1-0で破った伝統校・富山東高に決定。近年は富山一の覇権が続いていた中、新時代の到来を感じさせる顔ぶれとなった。 「県リーグで2試合やっていてお互いの手の内はわかっているので1週間しっかり準備して臨みたい」(濱辺監督)。相手も1977年度以来の全国大会出場に向けてモチベーションは高いが、ジャイアントキリングの勢いは相手に勝るポイント。「ここ数週間、勝ち上がるごとにチームが成長してくれて、それを3年生が引っ張ってくれて、1試合1試合頼もしくなってきた」。大舞台を通じて遂げてきた成長を糧に、このまま初の全国舞台まで駆け上がるつもりだ。