地面師「売主は納税のために急いでいる」…港区・2億5,000万円の物件を巡る詐欺、“なりすまし”を見破れなかった弁護士の末路【判例紹介】
2024年7月に開始されたドラマの影響で、急速に認知を広めている地面師詐欺。不動産の所有者になりすまし、自分の物ではない不動産を売りつけるという手口で、そこで用いられる精巧な偽装書類は専門家であってもなかなか見抜けないといいます。そんな地面師詐欺に、なにも知らずに関与してしまった弁護士の末路とは……。弁護士の北村亮典氏が実際の判例をもとに解説します。 【早見表】3,000万円30年返済の住宅ローン…金利差による利息分
なりすましに気付かず…“地面師詐欺”に関わった弁護士の賠償責任は?
現在、地面師を取り上げたドラマが話題となっています。 そのドラマの中でも「地面師詐欺は緻密かつ高度な犯罪テクニックが必要な犯罪である」と言われているように、地面師詐欺事件は巧妙な手口で行われるために、何も知らずにその取引に関与した弁護士や司法書士等の専門家がなりすましを見破れず、紛争の当事者となってしまうケースがあります。 地面師詐欺の不動産取引に関わった専門家の賠償責任が問題となった事例はいくつかありますが、今回は、地面師詐欺と知らずに関わってしまった弁護士の賠償責任の有無についての判断を示した事例として東京高裁平成29年6月28日判決(原審東京地裁平成28年11月29日判決)を紹介します。 この判決の事案の概要は以下のとおりです。 (1)Y弁護士(本件の被告)は、以前に事件の依頼を受けたことがある不動産取引ブローカーのBから、収益物件(港区内の賃貸アパート)の売買において、売主の立会人となる弁護士を探しているとの依頼を受けた。弁護士Yは、一旦はこれを断ったが、ブローカーのBからどうしても弁護士の関与が必要と懇願されたため、引き受けることとした。 (2)弁護士Yは、Bが連れてきた不動産の所有者と自称する70代後半女性と面会したが、その際にその女性(以下「自称A」という。)は、「不動産は夫の遺産であり遺産分割協議により自らが単独で所有することになったが、不動産の売買は初めてであり、不安があるため、弁護士に契約締結に立ち会ってほしいと思った」と話した。 (3)その後、弁護士Yは、ブローカーのBより、「所有者のAが不動産の登記識別情報通知を紛失したため、本人確認情報を作成してほしい」と依頼されたため、その翌日に、自称Aと面談を行い、本人確認資料としてA名義の住民基本台帳カードの提示を受け、氏名、住所、生年月日、干支を訪ね、自称Aの回答が正しかったため、本人確認情報を作成した。 (4)買主X(個人・本件の原告)は、旧知の不動産ブローカーG(ブローカーBから物件情報の提供を受けたブローカー)よりこの物件の情報の提供を受け「売主は、本件不動産を相続により取得したが、親族間で揉め事があり、税金支払いのため売却を急いでいる、売買代金2億5,000万円は現金一括決済が条件、取引には弁護士が関与する」などの情報を聞いた。 Xは、自分の知り合いの弁護士にも相談したが、特に問題がないだろうとの意見を得たので、情報提供を受けた翌日に、不動産の購入を申し入れた。 (5)その3日後、弁護士Yの事務所において、買主、なりすましの売主、ブローカーB、仲介業者者等計約10人の立ち合いのもと、売買代金2億5,000万円の売買契約が締結された。そこで、買主Xは、売主のなりすましである自称Aに現金で2億4,000万円を引渡すとともに、弁護士Y作成の本人確認情報、遺産分割協議書等により、本件不動産の所有権移転登記を経た。 (6)しかし、翌月になり、不動産の真の所有者Aが、自らの不動産名義が移転されていることに気づき、所有権移転登記の抹消訴訟を起こした。結局買主Xは所有権を取得できなかった。 (7)そこで、買主Xは、自称Aに騙されて不動産所有者Aの本人確認情報を提供した弁護士Yに対し、住民基本台帳カードや遺産分割協議書等の偽造及び所有者のなりすましに気付かずに誤った本人確認情報を提供した過失があるとして、不法行為に基づき、売買代金相当額、登記移転費用等、計3億2,239万円余の損害賠償を請求した。 以上が本件の概要です。
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