〝ホラーの巨匠〟サム・ライミがプロデュース。緊迫感あふれるサスペンススリラー「ドント・ムーブ」
〝怖い映画〟の息を潜めるような張り詰めたシーンにおいて、我々が感じる恐怖は2種類ある。「何が起こっているのかわからない」「何が起きるかわからない」という〝予測不能な恐怖〟と、「ああなったらどうしよう、こうなったらどうしよう」という〝展開を想像してしまう恐怖〟だ。Netflixにて10月25日(金)から配信中の「ドント・ムーブ」は、その両方をバランスよく感じさせてくれるサスペンススリラー作品といえる。 【写真】死を望んで森に入った女性(ケルシー・チャウ)が、殺人鬼に筋弛緩剤を打たれ、死の恐怖に晒される。
息子を失った女性が殺人鬼に命を狙われる
「ドント・ムーブ」は息子を失った女性が森の奥地で自ら命を絶つことを考え、見知らぬ男性によって考えを変えるも、その男性が殺人鬼で筋弛緩剤(きんしかんざい)を打たれ、改めて命を狙われてしまうという物語。もはや「Don’t Move」(=動くな)というより「Can’t Move」(=動けない)感の強い今作の脚本は、何を考えているかわからない男性に狙われる〝予測不能な恐怖〟と、動けない主人公に殺人鬼がジリジリ迫ってくるという〝展開を想像してしまう恐怖〟、どちらもバランスよく味わわせてくる。 息を押し殺したくなる緊迫感と、時に爽快感すらも感じさせる派手なバイオレンス描写という緩急のギャップが目立つ今作だが、それもそのはず。今作の製作にはあのサム・ライミの名前が載っているのだ。トビー・マグワイア主演の「スパイダーマン」シリーズ(2002~07年)の監督というイメージを強く持っている映画ファンもいるかもしれないが、元はといえばライミは〝怖い映画〟のスペシャリスト。彼はどこでどのような展開を生むのが一番恐ろしく、エキサイティングかを知っている。
新進気鋭の監督、役者たちが集結
「死霊のはらわた」シリーズ(1981~93年)や「スペル」(09年)といった監督作品でホラー映画への情熱を見せつける傍らで、「スパイダーマン」シリーズやディズニーの実写映画「オズ はじまりの戦い」(13年)でそのイマジネーション能力を幅広く示してきたライミは、最新の監督作品「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」(22年)でも派手で残酷なバイオレンス描写とにじり寄るように迫ってくる恐怖を演出することでMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に新たな風を吹かせており、現在もいかに観客を怖がらせるかに情熱を注いでいることを感じさせた。 ちなみに監督はアダム・シンドラーとブライアン・ネット。シンドラーは「侵入者 逃げ場のない家」(15年)、ネットは「Delivery(原題)」(13年)とそれぞれスリラー長編を1作ずつ監督しており、ともに今作が長編2作目となる新進気鋭のフィルムメーイカーだ。 殺人鬼役を演じたフィン・ウィットロックは、人気ドラマシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」での複数の役の演じ分けや、Netflixオリジナルシリーズ「ラチェッド」などで知られる俳優。22年にはNetflixの「私は世界一幸運よ」やAmazon Prime Videoの「底知れぬ愛の闇」にも出演するなど、近年のほの暗い雰囲気のあるストリーミング作品を随所で彩ってきた俳優といえる。今作でも絶妙に「いい人ぶるのが得意な悪人」という役が似合っていた。 一方で主人公を演じたケルシー・チャウも「ファーゴ」や「イエローストーン」などのドラマシリーズで活躍してきた俳優。ウィットロックとチャウ、ともに独特の雰囲気を持つ彼らの今後の活躍にも期待したいところだ。