〝ホラーの巨匠〟サム・ライミがプロデュース。緊迫感あふれるサスペンススリラー「ドント・ムーブ」
誰でもそうなる可能性ある「動けない」状態下の恐怖
〝動けない〟というコンセプトは今作の魅力であり、ネックでもある印象も受ける。主人公が筋弛緩剤を打たれて思ったように動けないという前提は抵抗できない恐怖というスリルを生むすばらしい起点であるのだが、一方でいかんせんずっと同じような状況が続くため、基本的に受け身で選択肢の少ない物語になってしまう点は好みが分かれるポイントだろう。 しかし、現実に起きている事件を考えれば、身動きできない状態にされてひたすら恐怖と痛みに耐えるといったシチュエーションは誰もが経験し得るものであり、それゆえ「現実に起きてしまったら?」と想像しやすいリアリティーがあるのだ。 むしろ被害者が動けないという制約の中で、被害者自身や目撃者、そしてほどよく賢い加害者がどのような機転を利かせ、どのようなコミュニケーションを取り、どこで大胆な行動に出るかという想像と洞察によって常に展開させ続けた製作陣の努力をたたえるべきかもしれない。 殺人鬼側は「自死を試みた人間なのだから」と主人公を格好のターゲット扱いしている節があるが、自死を試みた人間も、いざ他人から命を狙われれば生にすがる。今作は現実的なひとつの事件にフォーカスし、主人公が抱く生き物としての本質的な恐怖、生への執着をピュアに観察したスリラー作品であるように感じた。 「ドント・ムーブ」はNetflixにて独占配信中。
ライター ヨダセア