巨大ブラックホールの撮影に挑む ── 日本チーム代表・本間希樹氏に聞く
極限に置かれた物理が解明される可能性
── どのような画像が出るか楽しみですね。 本間氏 私は研究者を20年やっていますが、その20年の中でも一番楽しいと言える時期の1つです。もし、いい画像が出て、これこそまさにブラックホールの影でしょ、という写真が撮れたら論文化します。もし論文がネイチャーやサイエンスなどの雑誌に載る場合には解禁日が指定されますので、画像が撮れてもそれをいつ皆さんにお見せできるのかは、今のところはっきりしたことが言えないのですが……。論文はEHTコラボレーションとして著者が100人になる巨大な論文になります。 ── もしブラックホールの黒い穴が写真に撮れたら、科学の世界にどのような変化をもたらすのでしょうか? 本間氏 100年かけてブラックホールがあると言われてきたことを最終的に確認する、そこに1つ大きな意義があります。ブラックホールがなぜ今まで見えなかったのかというと、小さいからなんです。物理学的に言うと、ブラックホールのまわりは一番重力が強いので、物の運動速度も光の速度に近い。地球では絶対にできない、再現できない強い重力、高い温度、速いスピード、そういうところでガスが動いている。そういう状況が写真として見えるわけです。そういうデータを蓄積していくと、極限の状況の物理というのが、僕らが地球で実験して知っていることとどこまで合っているのか、そういうことがわかってくるということがあると思います。アインシュタインの相対性理論はブラックホールの近くでは成り立たない、そういった主張をしている人もいます。長い目で見ると、ブラックホールが見えるようになることで、極限に置かれた物理がどうなっているのかが解明され、その結果、科学に大きなインパクトをもたらす可能性があります。
── 最後に、先生にとってブラックホールはどのような存在なのか教えてください。 本間氏 ブラックホールは極端な性質なんですよ。ブラックホールはとんでもなく小さくて重力が強くて、光も出てこなくて。常識的に考えて、そんな天体、宇宙にあるのかと思うわけですが、そういうものが今までの観測、長い研究、いろんな人の努力によって、あるらしいと、ほとんどあるといって間違いないというところまできているわけです。でも、最後まで詰め切れていない。そういう意味では、とても面白い天体に対して、素朴な疑問がまだ残っていて、研究対象として非常に魅力的です。 【本間希樹】ほんま・まれき。1971年、アメリカ・テキサス州生まれ。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程を修了し、博士の学位を取得。現在、国立天文台水沢VLBI観測所教授・所長。専門は、超高分解能電波観測による銀河系天文学。著書に「巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の『時空の穴』に迫る」(講談社ブルーバックス)。