第三十二回 130キロも出ないストレート…だが、それこそが石川雅規の理想の投球/44歳左腕の2024年【月イチ連載】
今年でプロ23年目を迎えたヤクルトの石川雅規。44歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。現在まで積み上げた白星は185。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2024年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。 【選手データ】石川雅規 プロフィール・通算成績・試合速報
「悔しさ」をシフトチェンジして、力に変える
石川雅規にとっての2024(令和6)年シーズンは、開幕からおよそ2週間経過した4月16日、バンテリンドームでの中日ドラゴンズ戦からスタートした。当初は、開幕6戦目となる4日の対広島東洋カープ戦での先発が予定されていたものの、3日の雨天中止による影響で、16日にまでずれ込んでしまったのだ。 「さぁ、来た、来た、来た! 16日の試合前はそんな心境でしたね。緊張と興奮、そして不安……。そんなものを全部足して、足して120パーセント。そんな感情でした」 プロ23年目を迎えた石川の口調は明るい。口では「不安」と言いつつも、「興奮」や「歓喜」が勝っているのがよく伝わってくる。同時に、彼はこんな思いも抱いていたという。 「改めて感じたのは、“この一軍のマウンドに立てるのは当たり前のことじゃないんだぞ、石川!”という思いですね。若い頃は黙っていてもローテーションで順番が回ってきたけど、最近では、一軍マウンドに立つことの難しさ、ありがたさをよく理解できるようになりましたからね」 冒頭で述べたように、今季は「開幕ローテーション6番手」としての役割を与えられてスタートした。しかし、そこには複雑な感情があったという。 「元々、開幕投手を目指して頑張ってきただけに、開幕投手になれなかった悔しさが、まずはあります。ローテーション6番手に入ったのも、ライアン(小川泰弘)が離脱したことで、そこに何とか入り込めたというのも、自分ではわかっています。それはやっぱり悔しいですよ。だけど、“悔しい”と思うだけなら、誰でもできること。その悔しさをどうやって結果に、数字に結びつけることができるか? 悔しさのシフトチェンジを意識しました」 それは、石川流のアンガーマネジメント術である。もちろん、いつも本人が言っているように、「僕は聖人じゃないので、感情のコントロールができなくなるときもある」のも事実だ。しかし、石川は「聖人」ではなくても、「一流のプロ野球選手」である。 「すぐに気持ちを切り替えることはできないですよ。でも、結果を残すためには気持ちのシフトチェンジをした方がいい。だから、切り替えることもできるんです」 結果を残すためには、どちらが得で、どちらが損なのか? 技術の向上、そして勝利において、徹底した実利主義、現実主義であることも、石川が23年にわたってプロの世界で生き抜くことができた理由の一つなのだろう。
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