【毎日書評】AI時代に「経理」として生き残る人が持っているスキルとは?
過去にも著作をご紹介したことがありますが、『経理の一流、二流、三流』(石川和男 著、明日香出版社)の著者は経理担当役員として建設会社に勤務するかたわら、税理士として開業し、簿記講師、大学講師、人材派遣会社など2社の取締役をも務める人物。 つまり本書においては、自身の原点である経理の仕事についてさまざまなノウハウを凝縮しているわけです。 本書を読めば、AI時代に生き残る戦略、そして経理の将来像、必要なスキルや、そのスキルを身につける勉強法などが分かります。 またタイトルどおり、同じ業務でも一流か二流か三流かを認識することで、スキルアップ、キャリアアップ、その他大勢から抜け出す方法も分かります。(「はじめに」より) こう断言できるのは、民間企業の経理担当として30年ものキャリアを持っているから。その間に一般社員から係長、課長、部長、取締役とそれぞれの立場を体験してきており、さらには現在起きている経理の問題も把握できているというわけです。 税理士業務を行うことで経営者の資金繰りや財務状況の悩み以外にも、経営や人手不足問題、働き方改革関連法案の話などの相談に乗ることにより、AI時代、能力主義の現状を把握し、解決策を見出してきました。 講師業も20年以上続けています。専門学校では24歳から80歳までと幅広い受講生、大学では高校を卒業したばかりの新入生と接し、広い視野で困りごとの相談に乗ることができています。(「はじめに」より) こうしたバックグラウンドをもとに書かれた本書のなかから、きょうは経理の原点について触れたChapter1「一流の『経理マインド』とは」に焦点を当ててみたいと思います。
経理の仕事すべてがAIに取って代わられるわけではない
経理の仕事が、税理士、行政書士、司法書士などの士業と並んで「AI時代に消えていく職業」と予測されているのはよく知られる話。とはいえ、すべての業務内容がAIに取って代わられるわけではないと著者は主張しています。 AIに仕事が奪われるか、奪われないかの二元論ではなく、業務によって今後は棲み分けが行われていくのだと。 どのような職種においても「大変だったり、面倒だったりする仕事」をAIが引き受けてくれるということであり、それは経理も同じだということ。 仕訳さえ切れば、総勘定元帳、試算表、損益計算書、貸借対照表まで作れる時代になりました。消費税の軽減税率やインボイス制度にも対応。年々複雑化される会計処理を人の手で行っていたら、大変な労働時間になります。 これらの仕事を手放して、AIにできない仕事をする。 手を動かす仕事から、頭を使う仕事へ。例えば、管理会計や精度の高い資金繰りや損益分岐点売上高の計算などを行っていくのです。(22ページより) さらに一流になれば、AIを使いこなし、経理面から新たな仕事を生み出すなどのクリエイティブな仕事も行っていくことができるでしょう。つまりAIに仕事を奪われるのではなく、AIのおかげで「時間を割かなければならない業務」に集中することができるということです。(20ページより)