自分を「ゴルゴ13」と重ね合わせた? 国松警察庁長官狙撃事件“自白”の男が死亡、かつて月刊誌に寄せた衝撃の手記
動機
一九九五年三月三十日、私は大きな衝撃を受けた。言わずと知れた「警察庁長官狙撃事件」のためである。もちろん、日本警察の最高指揮官が狙撃されるという前代未聞の重大性にもよるが、もう一つは、それが本もののプロとみられる人物の手で実行されたという感じを受けたからである。日本にも遂にこんな人間が現われたのか、という驚きがあった。 私がこの凄腕のスナイパー(狙撃手)に特別な関心を抱いたのは、私自身「鎗客」を自任していたからである(「鎗客」という中国語には日本語の適訳がない。「鎗(槍)」は「銃」のことであるから「剣客」の「剣」を「銃」に置き換えたものと考えればいいだろうか。因みに中国語では「拳銃」を「手鎗」という)。まあ、アクション・ドラマ好きのやじ馬的好奇心がなかったとは言わないが、とにかく、この事件にのめりこんだ私は、テレビ報道や出版物などできるかぎりの関連情報と資料を集め、また何度も事件現場を訪れて実地調査を重ねた。 私には、いつかこの事件をノンフィクション・ノヴェルに仕立て上げてみたいという願望が根付いていた。ほかにもそういうもくろみを持つ人がいるかもしれない、しかし、私は自分が最適任者だと考えていた。なぜならその当時、私は自分を、中学生のときに正式に銃器操作の訓練を受けて以来、機会ある度に修練を重ねてきた年季の入った「鎗客」だと自負していたから、他の誰よりもこのスナイパーの心理や行動を理解できるはずだと考えていたからである。 しかし、その願望も何かと雑事に追われて、具体化しないままに歳月が過ぎていった。その間、この事件を題材にいくつかの試作を試みもした。だが、これらは詩としてはそれなりにまとまってはいたものの、感情移入が強すぎて、本来のノンフィクションというものの本質からはかけ離れていることは否めない。結局は、そういう事情で、当初の志が実現しないまま今日に至ってしまった。 ところが、思いがけない成行きで報道各社の取材を受ける羽目になり、いろいろ回答やら弁明やらをしなければならない立場に立たされたのを機会に、これまで私が暖めてきたもののせめて一部でも披瀝したいと思うようになったのが、この一文を執筆する動機となったのである。