韓国のJ-POP人気に拍車をかけるキュートなガールズバンド、QWERの魅力に迫る
デビュー1年で"消化不良感"が消え大ブレイク
しかしながら、バンドが活動を開始してしばらくの間はB級感が少しだけ漂っていたのは否めない。YOASOBIやでんぱ組.incといった日本のアーティストを思わせるBPMの速さや凝った展開などを取り込んではいるものの、自分たちの持ち味にするには改善の余地があり、ボーカルも上手いとはいえ、あまりインパクトがないように思えた。 だが、こうした"消化不良"の状態は、2024年4月にリリースした初のミニアルバム『MANITO』で一気に消え去った。十数年前のK-POPシーンで流行っていたアイドルソング風の「SODA」、韓国のバンド風の「地球征服」、日本のインディーズバンドの香りを漂わせた「大観覧車」など、日韓のどちらかに寄せつつもボーカルや親しみやすいメロディからは両国共通の情感がにじんでいる。 『MANITO』のリードトラックで大ヒットした「悩み中毒」は、日本の地下アイドルが歌っていそうなアップテンポのナンバーだが、力強く伸びやかなボーカルからはK-POP特有の美学も感じさせ、このふたつの絶妙な組み合わせが今どきの若者の気分にジャストフィットしたと思われる。 <J-POPが受け入れられた時代の流れに乗る> J-POPを意識した音作りとアイドル的な装い、文字入力用キーボードの多くが採用するQWERTY配列をヒントに名付けたバンド名、実写にアニメや漫画風のカットが挿入されるミュージックビデオなど、QWERは同世代が好むものを積極的に吸収して大きな成功を手に入れた。 誰よりも先にこうした路線をメジャーシーンで選んだ点に加え、時代の流れにしっかり乗ったのもメガヒットした要因だろう。このコラムでもたびたび紹介しているように、韓国ではここ数年、日本的なものが受けている。音楽では藤井風やYOASOBI、Official髭男dismといったアーティストがアニメやSNS経由で人気に火が付き、時を同じくして昭和・平成の名曲もクローズアップされている。そんな状況の中で登場したQWERが歓迎されたのは当然だと言えよう。 話が少しそれてしまうが、ネットを覗くと、"彼女たちは本当に演奏しているのか?"という話題をよく見かける。この件に関してバンド側は、「メインとなる音は実際に演奏しているが、バッキングトラック(効果音や追加の 楽器)が多いせいで目立たない場合がある」と説明している。 K-POPの世界ではリップシンク(口パク)問題がよく起こり、先日もBLACKPINKのメンバー・LISAがアメリカでの公演で本当に歌っていたかどうかが話題となった。QWERの場合は、歌ではなく演奏(※)に疑いが向けられたわけだが、そのようなことがニュースになるのも新世代のバンドらしくて興味深い。 ※楽器を弾く真似だけで実際に演奏していないことを"ハンドシンク"と呼ぶ人もいるそうだ。 現在は2ndミニアルバム『Algorithm's Blossom』のメイントラック「私の名前は晴れ」が大ヒット中のQWER。今回のナンバーも日韓で共通する感性をベースにしたサウンドで、彼女たちならではの魅力をしっかりとアピールできている。この調子で行けば、同じタイプの後進も増え、長らくダンスポップが主役だった韓国のアイドルシーンも大きく変わるかもしれない。当面はこのバンドおよび周辺の動きをしっかり追っていこうと思う。