中国の銀行が対露ビジネスから一斉撤退 米「2次制裁」の威力にプーチン大統領も戦々恐々
ウクライナ侵略を続けるロシアと中国の貿易関係に異変が起きている。ロシアの軍需産業を支援しているとみなした海外の銀行に対し、米国が新たな制裁を科す方針を昨年末に発表したことを受け、影響を懸念した中国の銀行が次々と対露ビジネスから手を引き始めているためだ。中国との経済関係は、ロシアにとって命綱ともいえる存在で、5月中旬に実施された露中首脳会談でのプーチン大統領の発言にも、対応に苦慮している現状がうかがえた。ロシアはこれまでも制裁回避を繰り返してきただけに、どこまでの効果が生まれるか注目される。 【写真】ロシア・中国間の貿易は侵攻後も拡大している ■海外の金融機関を対象 「第三国の経済活動に対する制裁は極めて不当なものだ」。5月17日、中国・ハルビンで行われた会見でのプーチン氏の発言には、新たな制裁による影響への懸念がにじんだ。「政府レベルで支援する必要がある」とも述べ、民間金融機関では対処できない状況にある実態も浮かび上がった。 プーチン氏の発言の背景には、米政府が昨年12月に導入を決めた、海外の金融機関を対象とした制裁があるとみられる。 米国の新たな制裁は、ロシアの軍需産業を支えているとして、米国の制裁下にある企業・個人のために取引を実施、促進した金融機関▽特定品目の販売・供給など、ロシアの軍需産業基盤に関わる重要な取引を実施、促進したと判断される金融機関―への制裁を科すという内容だ。 米報道によれば、金融機関は取引相手が制裁を受けているかを認識していなくても、制裁の対象になるという。米国が関わらない取引を制裁する「2次制裁」と呼ばれるもので、ロシアのウクライナ侵略に絡み、このような制裁を米国が導入するのは初めてという。 ■米市場へのアクセス死活問題 これに、中国の銀行は反応した。露紙ベドモスチ(電子版)によれば、対露貿易の拠点のひとつとみなされている中国・浙江省の銀行が昨年末、中国から工業機械の部品を輸入するロシア企業に対し、一部の物資を対象にした決済業務を停止したと通告した。しかし数週間後には、商品、通貨の種類にかかわらず、すべての取引を停止すると伝えてきたという。ロシア企業が開設していた、外貨建ての口座を凍結した銀行もあった。 なぜ中国の金融機関は今回の制裁に敏感に反応したのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介副主任研究員は「中国の銀行にとり、米金融市場へのアクセスは、死活問題だからだ」と断じる。中国の貿易決済は、ドル決済が主流であるため、「ドル資金がなければ、貿易取引に支障がでる。だから、中国の銀行はロシアとの取引を停止したのだ」と解説する。