トラックドライバーの残業規制で物流が35%も滞るかもしれない2024年問題について。(林秀樹 社会保険労務士)
■ドライバーの残業上限は960時間。要するにそれだけ。
ドライバーの労働時間に課せられる上限規制は以下の通りだ。 ・原則は月間45時間、年間360時間までの上限規制 ・特別な理由がある場合に年間960時間まで延長可能 ドライバーは通常の労働者に課せられる規制、1ヵ月100時間の制限や2カ月~6カ月平均での80時間制限、原則の時間(月間45時間)を超えてもいい年間6回の制限、これらがない。 極端な言い方をすれば年間960時間さえクリアすれば良い。これだけ大騒ぎする2024年問題とは意外と単純な問題なのだ。 しかし一般の労働者と混同して、年6回の回数制限でなおかつ月80時間の制限で36協定を申請してしまうと、上限は750時間となる(80×6+45×6=750)。 実務的な細かい話まですると、そのように間違って書いてしまいそうな書式になっていることもまた問題と言える。 ではその様に間違った36協定を労働基準監督署に提出するとどうなるか? この会社のトラックドライバーは申請通り年間750時間の残業が上限となり、それを超えたら36協定違反になって罰則が適用されてしまう。 ドライバーの残業時間の上限設定には申請が必要であること、間違った申請をしないこと、一見するとこんな当たり前の手続きで多くの運送会社がつまづいてしまう可能性がある。これは2024年問題を更に悪化させるかもしれないと筆者が大いに危惧している問題点だ。
■全ての業種に当てはまる36協定問題
実は2024年問題とは運送業界だけの問題ではない。運送業界以外にも建設業界や医療業界にも2024年問題は存在する。それぞれ残業時間の上限などは違うのだが、36協定が重要なのは同じだ。 建設業界と医療業界も、2024年問題のスタートに合わせて、36協定は新様式に変更される。運送業界や建設業界、医療業界などの2024年問題の対象業種以外にも、当然残業時間の上限は設定されている。 ただ、理屈は今回解説した運送業界と同じだ。何もせずに自動的に残業が認められる業種は存在しないと考えて良い。 残業が必要な会社はそれぞれの上限を守りつつ、会社の実態に合った時間数を記載した正しい36協定を作成して労働基準監督署に提出して欲しい。これは企業にとっての問題というだけではなく、適切な労務管理は従業員にとっても極めて重要であることは言うまでもない。 そして2024年問題をクリアするために重ねてきた努力を無駄にすることなく、社労士としては労使ともに働きやすく企業が経営されることを願っている。 林秀樹 社会保険労務士 林労務経営サポート代表 株式会社エンパワーマネジメント代表取締役
【林秀樹 プロフィール】
社会保険労務士。林労務経営サポート代表。株式会社エンパワーマネジメント代表取締役。 1972年生まれ。2001年に社会保険労務士事務所「林労務経営サポート」を開業。2018年に人事コンサルタント会社「株式会社エンパワーマネジメント」を設立。訴えられない会社作りをモットーに、他の社会保険労務士が敬遠しがちな「運送業の未払い残業代対策のための賃金制度作成」「問題社員対応」等を得意とする。「1DAY就業規則作成サービス」を開発し全国各地に顧問先を持つ。上場企業で企業リスクに関するセミナー講師の実績も多数。