「警察も信じられない、いっそ署の前でガソリンをかぶってやろうか」…「地面師事件」被害者を絶望させた警察の”奇行”
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第55回 『報酬10万円でアパホテル事件に加担した「元高校教師」は、裁判時には記憶が断片的に...なりすまし役の“認知症”まで見越して犯行計画を立てる地面師グループの「黒幕」たち』より続く
アパホテル事件の次は「世田谷5億円事件」
捜査員にとっては、仕事納めギリギリのタイミングだったといえる。2017年12月2日土曜日の午後7時過ぎのことだ。警視庁町田警察署刑事課の私服刑事が手分けし、東京都内の関係先を張り込んでいた。最大の捜査対象の一人が北田文明、そしてもう一人が内田マイクだった。 赤坂の駐車場をめぐって鈴木兄弟になりすまし、ホテルチェーン「アパグループ」から12億6000万円を騙しとった地面師たちを逮捕したのが11月8日から29日にかけてのことだ。 警視庁捜査2課はそこから間髪を入れず、新たな捜査に乗り出した。それが、かつてNTTの寮として使われていた世田谷の土地・建物をめぐる詐欺事件だった。 捜査当局の狙った北田と内田。2人が多くの地面師事件で中心的な役割を果たしてきたことは繰り返すまでもないが、この時期に彼らの本格捜査に踏み切ったのは、別の理由もあった。
「2人のスター地面師」
内田マイクは、すでに2015年11月、杉並区浜田山の駐車場オーナーになりすました2億5000万円の詐欺事件で逮捕・起訴されている。それから2年後のこの年、東京地裁の一審、東京高裁の2審判決ともに実刑判決が下った。が、当人はこの間、控訴、上告して保釈中の身となり、相変わらず優良不動産を物色し、新たな事件の裏で糸を引いてきた。 一方、もう一人の北田もまた、詐欺事件の前科前歴がある。が、この数年は逮捕されていなかった。警視庁捜査2課にとっては、厄介な2人を野に放ったままだ。そんなときに着手したのが、世田谷のこの事件だった。警視庁捜査2課は2人のスター地面師を同時に捕まえられる好機だととらえていたのだろう。しかし、事件現場となった所轄署の刑事たちに本庁ほどの熱が入っていたわけではなかった。後述するとおり、そのせいで捜査はずいぶん迷走する。 11月に入り、元NTT寮をめぐる不動産の詐欺容疑は固まっていたが、主犯の一人と睨んだその北田の消息が途絶えた。帳場を置いた町田署の捜査員たちの焦りは想像に難くない。帳場とは、捜査本部を指す捜査員たちの符牒であり、そこに警視庁本庁捜査2課の応援が入り、具体的な捜査を展開する。 「北田が出てくるまで、ガラ(身柄拘束)は無理だ。見つけ次第、一挙にやるぞ」 本庁からそう指示された町田署の捜査員が北田を発見したのが、まさに12月初めの週だった。逮捕日は、検察に身柄を送検するまでの48時間の警察署内の勾留とそこから起訴するまでの検察留置の20日間から逆算して決めるのが、常道だ。12月下旬の仕事納めを考えると、北田の逮捕は年内にできるかどうかという瀬戸際だった。そうして町田署の捜査員が2日、関係各所をいっせいに家宅捜索した。
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