『光る君へ』木村達成が体現する三条天皇の強さと苦しみ ゾッとする道長の言葉の数々も
『光る君へ』(NHK総合)第43回「輝きののちに」。三条天皇(木村達成)の即位から三年が過ぎ、中宮・藤原妍子(倉沢杏菜)は皇女を産んだ。道長(柄本佑)は皇子でないことに失望する。その後、内裏で度々火事が怒り、道長は内裏の火事は三条天皇の政に対する天の怒りであるとして、譲位を迫った。三条天皇は譲位を頑として聞き入れないが、道長は政務の場で三条天皇の異変に気づく。 【写真】Xでもトレンド入りした倫子(黒木華)のすべてを理解した上での微笑み 三条天皇を演じる木村は、一条天皇(塩野瑛久)の譲位により即位後、天皇としての道を突き進み、積極的に政に励もうとする姿勢をやる気と自信に満ちた表情で表している。しかし第43回では、道長との対立が深まる中で、目が見えず、耳も聞こえにくくなってしまう。木村の佇まいからは、精力的に政に向き合いたい、天皇であり続けたいと願う強さを持ち続けながらも、自身のままならない体に対する不安や焦り、苛立ちが感じられた。 特に、道長の返答に立腹した三条天皇が立ち去ろうとした際、つまずき、倒れる場面で声を荒らげる姿には切なさも覚える。道長は倒れ込んだ三条天皇に手を貸しながらも「お目も見えず、お耳も聞こえねば、帝のお務めは果たせませぬ」と諫めた。三条天皇はおそらく、自身の状態が「帝の務め」「国家のため」にならないことは重々理解しているはずだ。それでも、一条天皇の東宮として20年以上過ごしてきたからこそ、帝であり続けることへの意志は固い。三条天皇は道長の手を振り払い、「譲位はせぬ! そんなに朕を信用できぬなら、そなたが朕の目と耳となれ!」と言った。この台詞の言い回しを通じて、三条天皇が躍起になっていることが伝わってくる。また今ここで譲位するわけにはいかないという三条天皇の意地は、道長に対して「それならば文句はなかろう」と強く口にした時の皮肉めいた、そしてどこか自虐的にすら見える面持ちにも表れていた。 そんな三条天皇は、娍子(朝倉あき)の前では表情がやわらぐ。目も耳も悪くなってしまい、娍子が自身にグッと近づくまで彼女だと気づけなかったようだが、「おお……娍子。会いたかったぞ」という声色は穏やかだ。宋から取り寄せた薬を見せ、「この薬が効けば、そのうち目も耳も治る」と言い聞かせる表情は優しい。自身が東宮の頃からずっと連れ添ってきた娍子は三条天皇にとって真に心のよりどころなのだと分かる。 一方で、内裏に復帰した道長に心穏やかな瞬間は訪れない。むしろ、道長にとって思うがままの政を遂行するために、より強硬的になったようにも思える。 第42回で道長は自分のことすら信じられなくなるほど憔悴しきっていたが、まひろ(吉高由里子)と語らう中で感情があふれだし、心が解放されたようだった。しかしそれで政の課題が解決したわけではない。三条天皇との対立は深まり、政を行う上で信頼を寄せる行成(渡辺大知)からは大宰府に赴任したいと言われてしまう。行成の申し出にはさすがに傷心しているようにも感じられた。だが、劇中、実資(秋山竜次)から諫められたように、道長の言動は思いのままの政を行おうとしているようにしか見えない。 ややゾッとしたのが、三条天皇に譲位を拒まれた後、敦成親王(石塚錬)のもとを訪れた道長の言葉だ。敦成親王とともに「偏つぎ」に興じたかと思えば、敦成親王から年を聞き出し「さきの帝がご即位なさったお年ですな……」と話し始める。「いずれ、帝となられる東宮様にございますゆえ」「帝たるべき道を学ばれるのは全く別のことでございますれば」と口にする道長の淡々とした口ぶりに心がざわついた。 第36回で彰子(見上愛)が皇子を産んだと知った際に見せた虚ろな目や、第37回でまひろに向かって言った「これからも中宮様と敦成親王様をよろしく頼む」「敦成親王様は次の東宮となられるお方ゆえ」という言葉が思い出される。第37回の台詞は言い方こそ何気なかったが、自分が思う政のために大きな影響力を持とうとしていることがうかがえ、ちょっとした怖さを覚えた。 実資から「幼い東宮を即位させ、政を思うがままになされようとしておることは誰の目にも明らか」と面と向かって諌められた道長なのだが、結局、自身の言動に無自覚なまま。嫡男・頼通(渡邊圭祐)の妻・隆姫(田中日奈子)に対して、「そなたにも是非、頼通の子を産んでもらいたい」と口にする場面もまた、ゾッとする。道長、倫子(黒木華)、頼通の3人で話す場面で、頼通を憤慨させる言葉をかけたのが倫子だが、結局のところ、一族を盤石にすることを最も信条としているのは道長だ。「思うがままの政」について実資から問われ、「民が幸せに暮らせる世を作ること」と答えたものの、道長の言動が父・兼家(段田安則)のやってきたことと大差ないように感じられるのは皮肉めいている。
片山香帆