棋士の引退 さまざまな引き際の決断 心に響いた木村義徳九段の「これ以上負けました、を言いたくない」
【勝負師たちの系譜】棋士の引退(上) 私も前年度の順位戦の結果で引退が決まり、13日に最後の対局となった竜王戦に臨んだ。私を含めた、棋士の引退について書いてみたい。 最近囲碁の杉内寿子八段が、97歳1カ月という歴代最高齢での公式戦対局、というニュースが報じられた。 対して将棋界では、歴代の最高齢現役記録は、加藤一二三九段の77歳だ。 これは囲碁界では引退制度がなく、自分で引退を宣言しない限り現役でいられるからだが、それでもこれから100歳を目指す棋士の対局は、立派である。 将棋界では、3通りの引退がある。 ①囲碁界と同じく、自分で引退を決める場合。 ②順位戦のC級2組から陥落、または自らフリークラスに行き、既定年数が経過(前者は60歳、10年。後者は65歳、15年まで)したとき。 ③65歳を過ぎてクラスがまだある棋士が、C級2組から陥落したとき(年齢的にフリークラスに行けない歳で)。 ④その他死亡引退も多いが、これは別格。 71歳の私は③に該当する。 同じ棋士でも規定で引退した棋士は、自分で引退を決めた人の気持ちは分からない。 木村義雄十四世名人は、2回目に名人を取られたときに引退を表明したし、その相手の大山康晴十五世名人は現役のA級のまま死亡したが、日頃から「A級から落ちたら引退」と言っていた。これらはプライドでの引退だ。 木村名人の子息の義徳九段の「これ以上負けました、を言いたくない」というセリフは、私には大いに響いた。正に同感だからだ。 この「負けました」のセリフ、2局に1回ならまだ良いが、歳を取ると3局に2回になり、5局で4回くらいになると、さすがに辛くなってくる。 その上私は、負けた日は1円も稼げなかった、という考えの持ち主。各棋戦の初戦の対局料は、棋士になれたからもらえるのであって、それは奨励会時代に努力した過去の遺産。勝って次の対局に進んで、初めて仕事をしたという思いがあると、毎回1円も稼げないのは辛いのだ。 そして私の世代は潮時かなと思ったのが、公式戦でも記録係がいなくなり、自分で時計を押すという時代になったこと。