LOSTAGE 47都道府県巡礼〈LOSTAGE the TOUR〉ファイナル・川崎クラブチッタ公演レポート ここから得たものをすでに形にして次へ
唯一の既発曲であることは重要かもしれない。この曲はbachoとのスプリットを出した2019年、録音はしたが作品化しなかったアウトテイクとしてMVだけが作られたものだ。YouTube公開されているから今も手軽に見れる、ネットで視聴できる数少ないLOSTAGE音源のひとつ。ただ、どう記憶を辿っても、その動画がバズを起こし、バンドの知名度やポジションを激変させるような出来事は起きなかった。ファンの間にしみじみ浸透し、知らない人にオススメできるいい機会ができた、くらいの話だったと思う。 5年が経ち新作『PILGRIM』に収録されてから、曲の価値が変わった。CDにパッケージされて直接手元に届くことで俄然ありがたみや愛しさが変わったのだ。そんなことが今どきあるかと思うが、目の前で起こっているのだから認めざるを得ない。LOSTAGEがCDやレコードのパッケージにこだわるように、ファンもまたパッケージされて届く何かを最も重視している。PCに取り込んでしまえば音源はただのデータになるから、聴き方の問題ではない。直接ライブハウスに行き、直接聴いた新曲たちを、ちゃんとお金を払って受け取った。バンドの手渡し方とファンの受け取り方が、ここでは何より重要なのである。五味岳久が後半のMCで語っていた。 「なんでも好きに食べれるビュッフェスタイルもいいけど、それも豪華やけど、自分ひとりのために作られた弁当のほうがうれしいと思う。CDは4000枚弱売れた。ツアーだけ回ってこんだけ売れるって、間違ってなかった」 『PILGRIM』からの全10曲が終わったあとは過去曲が続く。いわゆる代表曲が連発されるのが常だが、ここでの選曲はやけに渋い。前述したbachoとのスプリット収録曲、かつてGEZANと出したスプリット収録曲、さらにはごく初期曲などが中心で、メジャー時代の曲はたった一曲のみ。マニア以外ついていけない流れだが、しかし誰も振り落とされる様子がないところがこの日のフロアの面白さだ。ファンダムをクローズドにするのは、悪く言うなら狭い村社会、好意的に解釈すればバンドが「他は知らんけど、君たちのことだけは信じている」とメッセージを放つ行為である。それを一度受け取れば「他の流行は知らんけど、LOSTAGEの選ぶ道には付いていく」覚悟が生まれるのだろう。変にストイックな覚悟とは違う。もっと確かな愛情のやり取りから生まれた誇らしさ。クラブチッタの広い空間に渦巻いていたのは、そういうものだったと思う。 アンコール、「昔の曲を練習してやるのも辛気臭い」との理由から披露されたのは、誰も聴いたことがない新曲「ひかりのまち」だ。今のロストエイジらしいシンプルなミドルテンポ、柔らかなメロディの中に切なさが滲む楽曲で、聴き取れたサビは〈最果ての街まで届けよう〉というもの。夢のひとつだった47都道府県ツアーをやりきって抜け殻になっているかと思いきや、バンドはここから得たものをすでに形にして次へと向かっている。 二時間のステージ終了後に発表されたのは、10月から3カ月連続で行われる東名阪クラブクアトロ公演〈路傍〉、さらには来年3月29日に決定した日比谷公園大音楽堂・単独公演〈轍〉であった。発表の瞬間、「うおおおおおぉぉぉぉぉ!」と巻き起こった歓声の大きさが、まだまだ続く頼もしい未来を物語っていた。 Text:石井恵梨子 <公演情報> 2024年8月25日(日) CLUB CITTA' LOSTAGE theTOUR FINAL LOSTAGE -ONEBAND SHOW- <リリース情報> LOSTAGE 12th アルバム『PILGRIM』 収録曲(全10曲入) 1.平凡 2.High Fidelity 3.巡礼者たち 4.へそ 5.瞬きをする間に 6.箱庭エレジー 7.錆 8.No Escape 9.あなたのそばで 10.胎動 <ライブ情報> 「路傍 #1」 2024年10月28日(月)18:00開場、19:00開演 会場:渋谷クラブクアトロ 共演:GEZAN 「路傍 #2」 2024年11月27日(水)18:00開場、19:00開演 会場:名古屋クラブクアトロ 共演:cinema staff 「路傍 #3」 2024年12月12日(木)18:00開場、19:00開演 会場:名古屋クラブクアトロ 共演:People In The Box 2025年3月29日(土)16:00開場、17:00開演 会場:東京・日比谷野外大音楽堂