LOSTAGE 47都道府県巡礼〈LOSTAGE the TOUR〉ファイナル・川崎クラブチッタ公演レポート ここから得たものをすでに形にして次へ
一般流通なし。奈良にあるTHROAT RECORDS店頭、もしくはライブ会場にて販売開始。そんな異様なスタイルでニュー・アルバム販売と久しぶりの全国ツアーに踏み切ったLOSTAGEが、一年と数カ月をかけてファイナルへと到達した。バンド史上過去最大動員となる川崎クラブチッタには何があったのか。到達点ではなく、ここから続く未来すら見せた一夜。その詳細をお届けする。 【全ての写真】LOSTAGEが47都道府県をまわった『LOSTAGE the TOUR』ファイナル公演(全12枚) 新作『PILGRIM』を手売りするため昨年5月から始まった47都道府県巡礼〈LOSTAGE the TOUR〉は、今年5月で一旦終了。その千秋楽にあたるファイナル公演が、8月25日、川崎クラブチッタで行われた。 さらっと書いているがいろいろ情報が変である。奈良在住のこのバンドに多少の距離がある人なら、まず疑問として浮かぶのは①LOSTAGE新作出してたの? ②手売りってどういうこと? ③クラブチッタみたいな広いハコが埋まるの? ということだろう。 解説していくと、①新作、出してます。出すというより新曲群を録音してパッケージするところまで完了。ただそれは一般流通に乗って店頭に並んだりサブスク配信されることはなかった。②ゆえの会場手売り。主に土日、一年をかけて全国のライブハウスを細々と回り、観客に直接CDを買ってもらう。ツアー初日の埼玉からツアー終わりの沖縄まで、ファンが待望の新曲を耳にするタイムラグは一年以上。そんなスローモーな手法で、情報即出しが当然、毎週末フェスやイベントに忙しいこの時代を渡っていけるのかと思いきや、③クラブチッタはほぼ満員。全国から1,000人近くが詰めかけていたのだった。 控え目に言って、この事実自体が快挙である。ライブで披露した曲名を書いたところでストリーミング再生はできないから、知らない人には何を書いても届かないかもしれない。ただ、自ら知りたくて情報を掴みにいった人、直接買ってメッセージを受け取った人に限り、今のLOSTAGEはとんでもないローカルヒーローに見える。ミュージシャンは音源セールスでは食えない、物販で稼ぐしかないと誰もがしたり顔で語れてしまう時代に、ここまでCDパッケージを魅力的に見せてくれたロックバンドを、私は他に知らないのだ。 18時、暗転。SEもなくステージに三人が登場。同時にバンドロゴの巨大バックドロップが降りてくる。ロストエイジがアルバムの全国流通を止めて直接販売に切り替えたのは前々作『In Dreams』以降で、その時のツアーファイナル、2018年のO-EAST公演のために用意したものだ。「店頭で偶然出会えない。直接販売しかない」というのは、つまりファンダムを極端にクローズドにする行為だが、当時のO-EASTに900人が集まったことを思えば、6年後の今、クラブチッタの動員がさらに増えているのは驚くべき事実でもある。 黙々と演奏されるのは『PILGRIM』収録曲だ。初めて見た時は「知らない曲ばかり」と思えたものが、一年以上をかけて観客にもずいぶん浸透している。ただし曲順はCDとは違う。ツアー前半は曲順も定まっていなかったが、後半から自然と今のかたちに収まったらしい。できたての新曲はツアーによって仕上がっていくと多くのバンドが口にするのだが、ただ、とても不思議に思えるのは、柔らかなラストに至る流れを作っていた「あなたのそばで」や「胎動」ではなく、事実上のラストソングが「瞬きをする間に」になっていたことである。イントロが始まった時のどよめき、演奏中ずっと起こっていたシンガロング、時には涙ぐんでさえいるファンの表情も含めて、この曲こそ「待ちわびた俺たちのテーマ!」という感じなのだ。